よくある現場の風景

午後4時半。グループホームのユニットでは、夕食の準備が始まる前に、日勤の職員が交代でパソコンに向かいます。ポケットのメモ帳には「201 昼 主8 副全 水分300」「午後 リビングで塗り絵 笑顔あり」と、走り書きが並んでいます。

メモを見ながら、介護ソフトのケース記録に一人ずつ打ち込んでいきます。食事、水分、排せつ、バイタル、日中の様子。思い出しながら書くので、「午後の様子、何だったかな」と手が止まることもあります。パソコンの順番を待つうちに、夕食の配膳の時間が来てしまいます。

隣の小規模多機能では、訪問から戻った職員が、通いと泊まりの記録もまとめて入れています。入力が苦手な職員の分は、ユニットリーダーが聞き取って代わりに書くこともあります。この法人では、記録が勤務時間内に終わらず、毎日のように30分ほどの残業が出ています。

介護労働安定センターが令和6年度に行った介護労働実態調査でも、働く人が挙げた労働条件・仕事の負担の悩みで最も多かったのは「人手が足りない」(49.1%)でした1。人が増えないなかで、記録の時間がケアの時間を少しずつ削っています。介護の現場全体の状況は介護・福祉の業種ページにまとめています。

AIを入れると、こう変わる

職員は、事業所のスマホを持ってケアに入ります。昼食の片づけが終わったところで、スマホに向かって話します。「201号室の方。昼食は主食8割、副食は全部。むせ込みなし。お茶を300。午後はリビングで塗り絵、表情は穏やか」。

話した内容は文字になり、AIが事業所の記録の欄に沿って整えます。「食事:主食8割・副食全量摂取。むせ込みなし」「水分:お茶300ml」「様子:午後はリビングで塗り絵。表情穏やか」。話し言葉の「全部」は、事業所でふだん使う「全量摂取」の書き方にそろえます。

職員の仕事は、この下書きを読んで、違うところを直すことです。直したら、いつもの介護ソフトの記録画面に入れて保存します。介護ソフトに音声入力の機能があれば、それを使うことで貼り付けの手間も省けます。

このモデルケースでは、話して残す習慣がついたあとで、記録にかかる時間は1人1日10〜20分ほど短くなると見込んでいます(目安です)。夕方の順番待ちが減り、記録の形がそろうので、夜勤への申し送りも「書いてあるとおり」で通じやすくなります。

やってみると、こうなる

職員がスマホに話したメモから、介護記録の下書きを作る

入力は架空の例です。出力は、生成AIで実際に試した結果を短くしたものです(毎回少しずつ変わります)。

  1. AIに渡すもの

    ケアの合間に事業所のスマホへ話したメモ(文字起こし)

    201号室の方。昼食は主食8割、副食は全部。むせ込みなし。お茶を300。 食後にトイレ誘導、排尿あり。 午後はリビングで塗り絵。表情は穏やか。おやつのときにジュースを半分。 おやつのあとに咳を2、3回。熱は測ってない。風邪のひきはじめかもしれない。 「足が痛い」って右の膝をさすってた。歩くのはいつもどおりに見えた。 夕方、娘さんから電話。日曜に面会に来るって。

  2. AIが返してくるもの

    AIの下書き介護記録の下書き(職員が読んで直してから保存)

    【食事】昼食:主食8割、副食全量摂取。むせ込みなし。 【水分】お茶300ml。おやつ時にジュース半分【要確認】 【排せつ】食後にトイレ誘導、排尿あり。 【様子】午後はリビングで塗り絵。表情穏やか。 おやつの後、咳が2〜3回あり。検温はしていない。 (職員の推測)風邪のひきはじめかもしれない。 「足が痛い」との訴えあり。右膝をさすっていた。歩行はいつもどおりに見えた。 【申し送り】夕方、娘様より電話あり。日曜日に面会に来られるとのこと。

  3. 人が見て直すところ

    • ジュースの「半分」を、コップの量から数字に直す
    • 「風邪のひきはじめかも」を記録に残すかは、事業所の書き方の決まりに合わせて職員が決める
    • 咳と右膝の痛みの訴えは、記録とは別にすぐ看護職・リーダーへ伝え、申し送りにも入れる
    • 読み直して数字と事実を確かめてから、いつもの介護ソフトに入れて保存する

自分で試してみる

ChatGPT・Claude・Gemini などに、下の指示文と例をそのまま貼りつけてください。無料版でも試せます。お客さまの名前や住所など、本物の情報は入れずに、この例のまま試してください。

AIへの頼み方(指示文)を見る
あなたは介護事業所の記録づくりを手伝うアシスタントです。
次の「職員がスマホに話したメモ」を、介護記録の下書きに整えてください。

条件:
・「食事/水分/排せつ/様子/申し送り」の欄に分け、話し言葉は記録の言い方にそろえる(例:全部 → 全量摂取)
・話していないことは書き足さない。数字は話したとおりに書く
・見たこと・聞いたこと(事実)と、職員の推測を分ける。推測には「(職員の推測)」とつける
・体調の評価や、受診が必要かどうかなど、医療的な判断は書かない
・最終確認は職員が行う。量や内容があいまいなところには「【要確認】」とつける

――――― ここから例 ―――――
201号室の方。昼食は主食8割、副食は全部。むせ込みなし。お茶を300。
食後にトイレ誘導、排尿あり。
午後はリビングで塗り絵。表情は穏やか。おやつのときにジュースを半分。
おやつのあとに咳を2、3回。熱は測ってない。風邪のひきはじめかもしれない。
「足が痛い」って右の膝をさすってた。歩くのはいつもどおりに見えた。
夕方、娘さんから電話。日曜に面会に来るって。

ここから先を、仕組みにする

試して手ごたえがあったら、毎日の仕事で回る形にします。ここが伴走でお手伝いする部分です。

  • 今の介護ソフトの記録の欄に合わせて、指示文を事業所用に作り直す
  • とろみ・臥床・頓服など、事業所でよく使う言葉の一覧を持たせて聞き間違いを減らす
  • 1ユニットで読み比べながら試し、「話し方のコツ」を1枚の紙にまとめる
この仕組みづくりを相談する →

仕組みを噛み砕くと

イメージとしては、ケアの合間の一言を聞き取って、記録用紙の欄に清書してくれる書記さんが、職員の横にいるようなものです。ただし、この書記さんは聞いたことを書くだけです。利用者の状態を判断したり、見ていないことを書き足したりしないよう、最初の指示文で決めておきます。

介護労働安定センターの同じ調査では、パソコンの介護ソフトで「利用者情報(ケア記録・ケアプラン等)の入力・保存・転記の機能」を使う事業所が全体で75.4%となるなど、介護ソフトはどのサービスの種類でも多く使われていると報告されています1。一方で、タブレット・スマホの「入力した音声を文章(テキスト)に変える機能」を日常的に使っている事業所は全体で13.0%で、話して入れる使い方はまだ少数です1。新しいソフトに入れ替えるのではなく、入れる手前の「書く」を「話す」に変えるのが、この使い方の考え方です。

流れ 中身 誰が
入力 ケアの合間にスマホへ話す(名前ではなく居室番号で) 職員
AIがやること 話し言葉を、事業所の記録の欄(食事・水分・排せつ・様子・申し送り)に整える 生成AI(決まった指示文で動く)
人が確認すること 数字、話していないことが足されていないか、言い回し 書いた職員
出てくるもの 介護ソフトに入れる記録の文。保存は今までどおり介護ソフトで 職員

指示文には、「話していないことは書かない」「数字は話したとおりに書く」「状態の評価や判断は書かない」「迷ったら空欄にして印をつける」といった決まりを入れます。事業所でよく使う言葉(とろみ、臥床、離床、ポータブルトイレ、頓服など)の一覧も持たせておくと、聞き間違いの直しが減ります。

介護ソフトに音声入力の機能がある場合は、そちらで文字にして、AIには言い回しをそろえる役だけを任せる形もとれます。どちらにするかは、今のソフトの機能と、職員の使いやすさで決めます。

公開されている取り組み

国の調査資料(案)では、介護報酬改定検証・研究委員会のヒアリング先の居宅介護支援事業所が、AI機能や文字起こし機能を含む業務効率化ツールと、1人1台のタブレット・ノートパソコンを主に使っていると紹介されています2。この事業所は「AI機能により記録作成等、以前よりも大幅な時間削減が可能になった」と答えています2。削減した時間の数字は、資料には書かれていません。

株式会社シーユーシーは、Geminiを活用した「ケア記録アシスト」を「ReHOPE」の2拠点・27名のスタッフで検証し、平均記録時間が4.0分から3.3分へ約20%短縮、スタッフ1人あたり1カ月約3.5時間の工数削減になったと発表しています3。同じ発表では「入力内容によっては従来の手法が適している場面も一部見受けられました」とも書かれています3。同社自身による検証の発表で、話して入れる形かどうかは発表からは分かりません。

進め方の例(小さく始める)

ステップ1 記録の棚卸しとルールづくり(1〜2週目)

会社にお願いするのは、今の介護ソフトの記録画面を見せていただくことと、管理者・リーダーへの1時間ほどの聞き取りです。伴走者は、記録の欄と、よく書けている記録の見本(名前を消したもの)から、AIへの指示文のたたき台を作ります。あわせて、介護ソフトの音声入力の機能の有無、事業所のスマホの管理のしかた、AIに入れない情報を決めます。

ステップ2 1ユニット・2〜3人で試す(3〜4週目)

いきなり全員ではなく、1つのユニットで、話すことに抵抗のない職員2〜3人から始めます。1週間ほど、いつもの記録とAIの下書きを並べて読み比べます。聞き間違えやすい言葉、足りない欄、言い回しのくせを、伴走者が指示文と言葉の一覧に反映していきます。

ステップ3 ユニット全体と申し送りに広げる(2ヶ月目)

話し方のコツを1枚の紙にまとめ、ユニットの全員で使います。日勤から夜勤への申し送りの要点を、その日の記録からAIにまとめさせる使い方もここで試します。

ステップ4 もう一つのユニットと小規模多機能へ(3ヶ月目以降)

うまくいった指示文と言葉の一覧を使って、ほかのユニットや小規模多機能に広げます。「訪問先では話さず、事業所に戻ってから話す」など、場面ごとの決まりもここで整えます。

ここまでを、数百万円の記録システムを入れ直すのではなく、今の介護ソフトと事業所のスマホ、生成AIの法人向けプランで作ります。

なお、令和6年度の介護報酬改定で生産性向上推進体制加算が新設され、(Ⅰ)は100単位/月、(Ⅱ)は10単位/月とされています4。厚生労働省の解説資料では、対象として短期入所系・居住系・多機能系・施設系のサービスが挙がっています4。自分の事業所のサービスが対象になるか、どの機器が要件に当たるかは、告示・通知で確かめたうえで、所管の窓口に確認してください。

気をつけたいこと・AIに任せないこと

  • 記録の中身の責任は、書いた職員と事業所にあります。 AIは聞き間違えたり、話していないことを足したりすることがあります。保存する前に必ず読み、数字と事実を確かめます。
  • 利用者の状態の判断はAIにさせません。 体調の変化、受診が必要か、ケアプランを見直すかは、看護職・ケアマネジャー・管理者が判断します。気になる変化は、記録とは別に、すぐ人に伝えます。
  • 利用者の情報の入れ方を決めておきます。 個人情報保護委員会は、本人の同意を得ずに個人データを含む指示文を生成AIサービスに入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があると注意を呼びかけています5。学習に使わないかを各社の法人向けプランの規約で確かめ、名前は居室番号などに置き換えます。詳しくはAIを使うときの注意点をご覧ください。
  • 私物のスマホは使いません。 事業所で管理する端末を使い、なくしたときの手順も決めておきます。
  • 記録の残し方・保存のしかたは変えません。 自治体の指導や法人の規程に沿って、これまでどおり介護ソフトに保存します。

具体的な対応は、所管の窓口(自治体の介護保険の担当課など)や専門家にご確認ください。

伴走者がお手伝いすること

  • 今の介護ソフトの記録の欄に合わせた、AIへの指示文づくり
  • 事業所でよく使う言葉(略語・専門用語)の一覧づくり
  • スマホ・タブレットの設定と、AIに入れない情報の社内ルールづくり
  • 1ユニットでの試行の立ち会いと、読み比べにもとづく調整
  • 職員向けの「話し方のコツ」の1枚資料づくりと、使い方の説明
  • 加算や自治体の補助を考えるときの、確認する項目の整理(判断は所管の窓口で)

記録の悩みは、業種をまたいで日報・記録・報告の悩みのページにもまとめています。

参考にした資料

  1. 公益財団法人介護労働安定センター「令和6年度「介護労働実態調査」結果の概要について(資料提供)」(回答事業所 8,978、2025年7月28日) https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_press.pdf ↩ ↩2 ↩3

  2. 厚生労働省 介護給付費分科会 介護報酬改定検証・研究委員会 第32回 資料1-4「(4)介護現場における生産性の向上等を通じた働きやすい職場環境づくりに資する調査研究事業(結果概要)(案)」(2026年2月18日) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001657220.pdf ↩ ↩2

  3. 株式会社シーユーシー「シーユーシー、Geminiを活用した「ケア記録アシスト」の検証結果」(プレスリリース、2026年3月27日) https://digitalpr.jp/r/131285 ↩ ↩2

  4. 厚生労働省 老健局「令和6年度介護報酬改定 生産性向上推進体制加算について 生産性向上推進体制加算(Ⅰ)及び(Ⅱ)の解説(R8.3更新)」 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001280909.pdf ↩ ↩2

  5. 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日) https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_kouhou_houdou.pdf ↩