業種別のAI活用

製造業・町工場のAI活用

技能の引き継ぎ、FAX注文の入力、図面探し、外国人スタッフへの教育。社長と工場長に集中する仕事をAIで軽くします。

製造業・町工場の現場で、よく聞く悩み

  • ベテランが辞めたら、あの加工は誰もできない
  • FAXの注文書を、毎朝手で打ち込んでいる
  • 図面や過去の記録が紙で、探すのに時間がかかる
  • 外国人スタッフに手順が伝わっているか不安
  • 社員が個人でAIを使い始めているが、ルールがない

製造業・町工場のユースケース(4件)

この業種でよくある状況

地方の町工場では、社長が営業と見積、工場長が段取りと品質、ベテランが難しい加工と若手の指導を受け持つ、という形がよくあります。どの役も特定の人に張りついていて、一人休むと仕事が止まります。

ものづくり白書の概要(2026年5月)を見ても、人手の状況は厳しいままです。製造業の就業者数は2024年が1,046万人、2025年が1,033万人で、わずかに減少しました1。中小企業の従業員数過不足DI(人が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いた値)は、製造業で2025年にマイナス17.9と、感染症が広がる前の2019年に近い水準です1。

紙とFAXも根強く残っています。製造業の受注業務担当者329名へのAI inside社の調査では、紙書類のやり取りがある担当者の73.3%が「FAXによる書類の受領が発生している業務がある」と答えています2。電子情報技術産業協会(JEITA)の事例集に載っている岡田研磨(石川県、従業員85人)でも、かつては紙の図面が必要になったときに見つからず、1〜2時間探すこともあったといいます3。

デジタル化への取り組みには、中小機構の2025年の調査(業種をまとめた数字)で、規模による差が出ています。DXに取り組んでいる・検討している企業の割合は、従業員101人以上で68.0%、従業員20人以下では21.3%です4。ものづくり白書の概要でも、AI・デジタル技術の活用にあたっての課題として、「知識やノウハウの取得」が57.2%、「導入に必要な人材の確保」が47.9%と挙がっています5。

一方で、社員が個人で生成AIを使い始めている会社もあります。日本商工会議所の2026年8月の調査には、春日井の金属製品製造業から次の声が寄せられています。「従業員が個人で生成AIを活用しているが、会社として把握できていない。情報漏洩に気を付けるように依頼はしているが、社内ルールはない。」6

AIで変えやすい仕事

  • ベテランの技能の引き継ぎ:ベテランに話してもらった録音から手順書のたたき台を作り、確認済みの手順書をもとに若手が質問できるようにします。くわしくは町工場の技能承継を、聞き取り×AIで手順書に残すをご覧ください。
  • FAX・PDFの注文書の読み取り:様式がばらばらの注文書から品名・数量・納品日を表にし、人が確かめてから販売管理ソフトに取り込みます(FAX注文の手入力を減らす方法)。
  • 外国人スタッフ向けの手順書:今の手順書をやさしい日本語と母国語に直し、写真つきの1工程1枚にまとめます(外国人スタッフに伝わる手順書づくり)。
  • 月々の数字のまとめ:会計ソフトから書き出した数字を、毎月同じ形の表にまとめるのを手伝います(月次の数字の使い方)。
  • 不良・クレームの記録の整理:手書きやばらばらのExcelの記録を同じ形にそろえ、似た不良を探しやすくします。

まだAIに任せにくい仕事

  • 品質の合否と検査の判断:寸法や外観の合否は、取引先との約束と会社の責任にかかわります。AIは記録の整理までにとどめ、判定は検査の担当者が行います。
  • 機械の安全と段取りの判断:機械の止め方や安全装置、刃物や治具の扱いは、けがに直結します。手順書づくりにAIを使っても、中身は責任者が決めて確かめます。
  • 図面や取引先の機密情報の扱い:預かった図面や取引先の情報は、AIに入れる前に入れてよい範囲を決める必要があります(AIを使うときの注意点)。
  • 価格と納期の交渉:単価の決定や急な納期の相談は、取引先との関係と現場の事情を知る人にしかできません。

最初の一歩におすすめ

効果が見えやすいのはFAX注文の読み取りです。毎日注文がある取引先を数社に絞って始めれば、入力の時間がどれだけ変わるかを1〜2ヶ月で確かめられます。

時間がかかるぶん、早く始めたいのがベテランへの聞き取りです。週1回30分話してもらうだけでも、数ヶ月続ければ残せるものは大きく変わります。ベテランが現役のうちにしかできません。

社員が個人でAIを使っているなら、あわせて入力してよい情報のルールを先に決めます。そのうえで、道具は現場の声を聞きながら広げます。岡田研磨でも、最初のタブレット導入は、ベテラン従業員から「紙のほうが見やすい」という声があがるなどして、なかなか浸透しなかったと紹介されています7。その後、AIを使って業務アプリを自社でつくり、ペーパーレス化でA4用紙換算で月5600枚の紙を削減したといいます7。小さく試して、使う人が納得してから広げるのが近道です。

参考にした資料

  1. 厚生労働省「2026年版ものづくり白書(令和7年度 ものづくり基盤技術の振興施策)概要」(2026年5月) https://www.mhlw.go.jp/content/11801500/001704747.pdf ↩ ↩2

  2. AIsmiley「AI inside 製造業の受注業務に関する実態調査」(AI inside株式会社の調査結果の紹介記事、2024年9月) https://aismiley.co.jp/ai_news/aiinside-ai-survey-results-manufacturing-industry-order-work/ ↩

  3. 一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)IT プラットフォーム事業委員会「IT ユーザトレンド調査(2025)AI 関連事例紹介」(2026年3月) https://home.jeita.or.jp/it/file/jirei0316.pdf ↩

  4. 独立行政法人 中小企業基盤整備機構「中小企業のDX推進に関する調査(2025年)アンケート調査報告書」(2026年2月) https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202602_DX_report.pdf ↩

  5. 経済産業省・厚生労働省・文部科学省「2026年版ものづくり白書(令和7年度 ものづくり基盤技術の振興施策)概要」(衆議院ウェブサイト掲載、2026年5月。図の元の調査は三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和7年度産業関係調査等事業(我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査)報告書」2026年3月、n=1,338) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/gian_hokoku/20260529monogaiyo.pdf/$File/20260529monogaiyo.pdf ↩

  6. 日本商工会議所「商工会議所LOBO(早期景気観測)2026年8月調査結果 今月のトピックス 生成AIの活用状況②」(2026年8月) https://cci-lobo.jcci.or.jp/wp-content/uploads/2026/08/LOBO202608.pdf ↩

  7. 独立行政法人 中小企業基盤整備機構(J-Net21)「「デジタルを会社の武器に」 AIを活用し業務アプリ内製化【岡田研磨株式会社(石川県津幡町)】」(2025年7月) https://j-net21.smrj.go.jp/special/dx/20250731.html ↩ ↩2

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