よくある現場の風景

午前8時。漬物工場の作業場で、工場長が、来日して2週間のベトナム出身の2人に、器具の洗浄と消毒の手順を説明しています。手元の手順書はA4で3枚。「希釈」「浸漬」「目視確認」「交差汚染」と、日本人の新人でも読み返す言葉が並びます。

「分かりましたか」と聞くと、2人は「はい」とうなずきます。ところが午後になると、消毒液の濃さが違っていたり、手袋を替えずに次の工程に進んでいたりする。フィリピン出身の先輩スタッフが助けてくれますが、話せる言葉が違うので、身ぶり手ぶりになります。

教える人によって説明が少しずつ違うのも悩みです。工場長は大事だと思うところを強調し、ベテランのパートさんは自分のやり方で教える。新しい人が来るたびに、同じ説明を一からくり返しています。

外国人スタッフのいる職場は、大きな会社だけの話ではありません。厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況(令和7年10月末時点)によると、外国人労働者数は2,571,037人で、届出が義務化された平成19年以降で過去最多になりました1。外国人を雇用する事業所は「30人未満」の規模が最も多く、事業所数全体の63.1%を占めています2。産業別では製造業が最も多く全体の24.7%、対前年増加率では「医療、福祉」が25.6%でした1。

AIを入れると、こう変わる

工場長は、洗浄と消毒の工程を1つずつスマホで撮ります。今の手順書と写真をAIに渡し、「1工程を1枚に」「1文を短く」「漢字にふりがな」「専門用語は言い換える」と頼むと、やさしい日本語の手順書のたたき台ができます。「希釈」は「水でうすめる」、「目視確認」は「目で見て、たしかめる」となります。

次に、同じ手順書をベトナム語・タガログ語・インドネシア語に訳させ、日本語と並べた形にします。ここで欠かせないのが人による確認です。日本語が得意なベトナム出身の先輩スタッフに訳を読んでもらい、「この言い方は分かりにくい」「消毒液の名前は日本語のままのほうが現場で通じる」といった指摘を反映します。

できた手順書はラミネートして作業場に貼り、朝礼で読み合わせます。AIに「この手順が分かったかを確かめる質問を3つ」と頼んで、「手袋はいつ替えますか」のような質問も用意しておきます。「はい」ではなく、答えの中身で理解を確かめられるようになります。

このモデルケースでは、最初の5〜6枚が2〜3週間でそろうのが目安です。誰が教えても同じ手順書から始められるので、説明のばらつきが減り、教える側の時間にも余裕が出ます。

同じ方法は、介護施設の入浴介助や申し送りの手順、農場の機械や農薬の扱いのルールにも使えます。同じ統計で、介護事業(社会保険・社会福祉・介護事業)の外国人労働者は108,140人、農業・林業では65,153人です3。

やってみると、こうなる

難しい手順書を、やさしい日本語とベトナム語にする

入力は架空の例です。出力は、生成AIで実際に試した結果を短くしたものです(毎回少しずつ変わります)。

  1. AIに渡すもの

    今の作業手順書(抜粋)

    器具の洗浄・消毒(漬物ライン) 1. 中性洗剤を用いて器具をブラシ洗浄し、流水ですすぐ。 2. 消毒液を規定濃度に希釈し、器具を所定時間浸漬する。 3. 浸漬後は流水ですすぎ、乾燥後に汚れ・水滴の残存を目視確認する。 4. 原料に触れた手袋は、次工程に移る前に交換する(交差汚染防止)。

  2. AIが返してくるもの

    AIの下書きやさしい日本語とベトナム語の手順書(確認前)

    【やさしい日本語】 1. 道具(どうぐ)を 中性洗剤(ちゅうせいせんざい)と ブラシで 洗(あら)います。流(なが)れる 水(みず)で すすぎます。 2. 消毒液(しょうどくえき)を 水(みず)で うすめて、決(き)められた 濃(こ)さに します。道具(どうぐ)を 決(き)められた 時間(じかん)、消毒液(しょうどくえき)に つけます。 3. つけたあと、流(なが)れる 水(みず)で すすぎます。かわいたら、よごれや 水(みず)の つぶが ないか、目(め)で 見(み)て たしかめます。 4. 材料(ざいりょう)を さわった 手袋(てぶくろ)は、つぎの 仕事(しごと)の 前(まえ)に 新(あたら)しい ものに かえます。よごれや 菌(きん)が ほかの ものに うつらないように するためです。 【ベトナム語】 1. Rửa dụng cụ bằng chất tẩy rửa trung tính và bàn chải. Xả lại dưới vòi nước chảy. 2. Pha loãng dung dịch khử trùng với nước cho đúng nồng độ quy định. Ngâm dụng cụ trong dung dịch khử trùng đúng thời gian quy định. 3. Sau khi ngâm, xả lại dưới vòi nước chảy. Khi đã khô, nhìn bằng mắt để kiểm tra xem còn vết bẩn hay giọt nước không. 4. Găng tay đã chạm vào nguyên liệu phải thay bằng găng tay mới trước khi chuyển sang công việc tiếp theo. Việc này giúp chất bẩn và vi khuẩn không lây sang thứ khác. 【言い換えた言葉】 希釈 → 水でうすめる/浸漬 → つける/目視確認 → 目で見てたしかめる/交差汚染 → よごれや菌がほかのものにうつる 【確かめる質問】 手袋(てぶくろ)は いつ かえますか?

  3. 人が見て直すところ

    • ベトナム語の訳は、日本語が得意なベトナム出身の先輩や、監理団体・登録支援機関の通訳に読んでもらい、確認が済んでから使う
    • 「決められた濃さ・時間」がどこを見れば分かるか(掲示・容器の目盛りなど)を、責任者が書き足す。数字をAIに決めさせない
    • 消毒液・中性洗剤など、現場で日本語のまま呼んでいる言葉は、訳にも日本語を残す
    • 「交差汚染」の言い換えで意味が欠けていないか、日本人のリーダーが確かめる

自分で試してみる

ChatGPT・Claude・Gemini などに、下の指示文と例をそのまま貼りつけてください。無料版でも試せます。お客さまの名前や住所など、本物の情報は入れずに、この例のまま試してください。

AIへの頼み方(指示文)を見る
あなたは食品工場で、外国人スタッフの教育を手伝うアシスタントです。
次の「作業手順書(抜粋)」を、来日したばかりのベトナム出身のスタッフ向けに書き直してください。

条件:
・まず「やさしい日本語」にする。1文を短くし、漢字には( )でふりがなをつけ、専門用語は言い換える
・次に、そのやさしい日本語をベトナム語に訳す。番号は元の手順書とそろえる
・元の手順書にない手順や数字(濃さ・時間など)は足さない
・最後に、言い換えた専門用語の一覧と、手順が分かったかを確かめる質問を1つ書く

――――― ここから例 ―――――
器具の洗浄・消毒(漬物ライン)
1. 中性洗剤を用いて器具をブラシ洗浄し、流水ですすぐ。
2. 消毒液を規定濃度に希釈し、器具を所定時間浸漬する。
3. 浸漬後は流水ですすぎ、乾燥後に汚れ・水滴の残存を目視確認する。
4. 原料に触れた手袋は、次工程に移る前に交換する(交差汚染防止)。

ここから先を、仕組みにする

試して手ごたえがあったら、毎日の仕事で回る形にします。ここが伴走でお手伝いする部分です。

  • 1工程1枚の型を決め、工程ごとの写真をつけた手順書にそろえる
  • フィリピン・インドネシア出身のスタッフ向けにも同じ流れで訳し、それぞれ母国語の分かる人に確かめてもらう
  • 理解を確かめる質問をいくつか用意し、朝礼の読み合わせで使う
  • 手順を変えたら、日本語版と母国語版を一緒に直すルールにする
この仕組みづくりを相談する →

仕組みを噛み砕くと

イメージとしては、**ベテランが書いた難しい手順書を、外国から来た新人向けに書き直してくれる「通訳つきの教育係」**です。ただし、この教育係は現場の正しいやり方を知っているわけではありません。手順の中身を決めるのは会社で、教育係は言い換えと訳を手伝うだけです。

流れ 中身 担当
1. 材料をそろえる 今の手順書・掲示物と、工程ごとの写真 人(工場長・リーダー)
2. やさしい日本語に 1文を短くし、ふりがなをつけ、専門用語を言い換える。1工程1枚の形にする AI
3. 中身の確認 手順の抜けや、言い換えで意味が変わっていないか 日本人のリーダー
4. 母国語に訳す やさしい日本語の文を母国語に訳し、日本語と並べる AI
5. 訳の確認 意味が通じるか、現場で使う言葉になっているか 母国語の分かる人(先輩スタッフ・通訳)
6. 使う・直す 掲示、朝礼での読み合わせ、理解を確かめる質問。分かりにくかった所を直す 人

コツは、先にやさしい日本語を作ってから、それを訳すことです。もとの手順書をそのまま訳すと、長い文や業界の言い回しが残り、訳も分かりにくくなりがちです。短く言い換えた日本語を元にすると、訳の確認もしやすくなります。日本語版と母国語版の中身がそろっているので、日本語の勉強にも使えます。

ここでいう「やさしい日本語」は、短い文、ふりがな、言い換えを心がけた日本語のことです。どこまでやさしくするかは、スタッフの日本語の力に合わせて決めます。来日したばかりの人と数年働いている人では読める日本語が違うので、「ふりがなあり」「なし」の2種類を用意するのも一つの方法です。

どの言語に訳すかは、実際にいるスタッフの出身国で決めます。全国の統計では、国籍別にベトナムが最も多く、次いで中国、フィリピンの順です2。

進め方の例(小さく始める)

ステップ1 伝わっていない手順を選ぶ(1週目)

工場長やリーダーと伴走者で、ミスが出やすい工程や、衛生・安全にかかわる工程を洗い出し、最初の5〜6枚を決めます。あわせて、スタッフの出身国と日本語の読み書きの目安、訳を確かめてくれる人を確認します。

ステップ2 やさしい日本語版を作る(2〜3週目)

今の手順書と写真から、AIでやさしい日本語のたたき台を作り、日本人のリーダーが中身を確かめます。伴走者は、AIへの頼み方(指示文)と、1工程1枚の型を用意します。

ステップ3 母国語版と確認(3〜4週目)

やさしい日本語版を母国語に訳し、先輩スタッフや監理団体・登録支援機関の通訳に確かめてもらいます。実際に新人に使ってもらい、分からなかった言葉を直します。

ステップ4 会社の教材にする(2ヶ月目以降)

対象の工程を広げ、手順書の置き場所と更新の担当を決めます。手順を変えたら、日本語版と母国語版を一緒に直すルールにします。ベテランのコツをまず日本語で残したい場合は、ベテランの技能を手順書に残す方法と組み合わせられます。

制度の動きも、教える仕組みを整える理由になります。出入国在留管理庁の資料によると、技能移転による国際貢献を目的とする技能実習制度を発展的に解消し、人手不足分野での人材の育成・確保を目的とする育成就労制度が創設されました4。育成就労制度は令和9年(2027年)4月1日から運用が始まります4。育成就労は、3年間の就労を通じて特定技能1号の水準の技能を持つ人材を育成するとともに、その分野の人材を確保することが目的とされています4。受け入れる側にも「育てる」準備が求められる中で、伝わる手順書はその土台の一つになります。

気をつけたいこと・AIに任せないこと

  • 訳は間違えることがある前提で使います。 薬品の濃さ、機械を止める手順、アレルギーにかかわる表示など、間違えると事故やけがにつながる部分は、母国語の分かる人の確認を通したものだけを使います。
  • 手順の中身はAIに決めさせません。 衛生管理や介護の手順、農薬の使い方などは、法令や社内の基準に沿って責任者が決めたものを元にします。AIの役目は言い換えと訳までです。
  • 在留資格や制度のことは、AIに聞いて判断しません。 育成就労制度が始まったあとも、条件に当てはまる場合は技能実習を続けることができ、その場合は技能実習制度のルールが適用されると説明されています4。こうした個別の扱いは、監理団体・登録支援機関や専門家に確かめます。外国人の雇い入れや離職のときに、氏名、在留資格、在留期間等を確認してハローワークへ届け出ることも、すべての事業主に義務付けられています1。
  • スタッフの個人情報は入れません。 氏名、在留カードの情報、パスポートの番号などはAIに入力しません。手順書づくりに個人の情報は要りません。
  • 「伝わったか」は人が確かめます。 手順書を貼っただけで終わりにせず、読み合わせや質問で理解を確かめます。

具体的な対応は、所管の窓口や専門家にご確認ください。

伴走者がお手伝いすること

  • 最初に取り組む手順の選び方の相談
  • やさしい日本語に直すためのAIへの指示文と、1工程1枚の型づくり
  • 母国語版の作り方と、訳を確かめる手順の設計
  • 理解を確かめる質問や、朝礼での使い方の工夫
  • AIに入れてよい情報・入れない情報の社内ルールづくり

業種ごとの使い方は、製造業・町工場、介護・福祉、農業・食品加工の各ページにまとめています。

参考にした資料

  1. 厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(令和7年10月末時点)」(2026年1月) https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001646130.pdf ↩ ↩2 ↩3

  2. 厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況【概要版】(令和7年10月末時点)」(2026年1月) https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001646128.pdf ↩ ↩2

  3. 厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況【表一覧】別表4 産業別外国人雇用事業所数及び外国人労働者数(令和7年10月末時点)」(2026年1月) https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001646131.pdf ↩

  4. 出入国在留管理庁・厚生労働省「育成就労制度の概要(令和8年7月改訂)」(2026年7月) https://www.moj.go.jp/isa/content/001452485.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4