よくある現場の風景

月曜の朝、社長はハローワークの求人の掲載期限が近いことに気づきます。事務の担当者に頼んで、去年と同じ求人票を出し直してもらいます。変えたのは給料の欄だけ。仕事の内容欄は「4tトラックでの配送業務。ルート配送が中心です」の2行のままです。

2週間たっても、面接希望の電話は鳴りません。たまに求人サイトから応募が来ても、社長は日中ずっと外回りで、返事を書くのは夕方以降です。翌日に電話をかけると、「ほかに決まりました」と言われることもあります。

人が採りにくいのは、この会社だけではありません。ハローワークでの求人・求職の状況をまとめた厚生労働省の一般職業紹介状況によると、2026年8月の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍でした1。1を超えると、仕事を探す人より求人のほうが多いという意味です。

職業別に見ると、差はさらにはっきりします。同じ月の職業別の数字(全国、常用・パート含む)では、有効求人倍率は介護サービス職業従事者が3.89倍、建設・採掘従事者が5.10倍、自動車運転従事者が2.54倍、飲食物調理従事者が2.21倍、接客・給仕職業従事者が2.31倍でした2。どれも、求人の数が仕事を探す人の2倍を超えています。

運送では、全日本トラック協会が運送事業者に行った調査で、ドライバーが「不足している」と答えた事業者の対応として最も多かったのは「求人情報の掲出等積極的な採用活動」で、63.8%でした3。

多くの会社が求人を出しているなかで、何年も前の数行の求人票が目にとまりにくいのは無理もありません。社長に「うちの良さは?」と聞いても、「普通の会社だよ」と返ってくる。毎日のことすぎて、外から見た良さが言葉になっていないのです。

AIを入れると、こう変わる

まず、社長と現場のベテランに1時間ずつ話を聞きます。1日の流れ、積み込みは手積みかフォークリフトか、新人にはどう教えてきたか、長く勤めている人はなぜ続いているのか。録音した話をAIに渡すと、求人票の「仕事の内容」欄に使える下書きが、いくつかの案で出てきます。

ハローワークの案内では、「仕事の内容」欄は記載内容が少ないと応募者が少なく、記載内容が充実するに従って応募者が増えるといった結果も出ているとされています4。聞き取りから書くと、「朝7時に出庫、県内の工場3か所を回って夕方には戻る」「最初の2週間は先輩の助手席で道と積み方を覚える」といった、その会社にしかない中身が自然に入ります。

社長の仕事は、下書きのうち事実と違うところ、言い過ぎのところを直すことです。給料や休日などの条件は、AIの文面をそのまま使わず、就業規則や雇用契約書と照らし合わせて確かめます。

応募が来たあとも変わります。応募の通知が届くと、事務の担当者がAIに「受け付けたお礼」「職場見学や面接の候補日」「当日の持ち物」を伝える返信の下書きを作らせ、確かめてその日のうちに送ります。社長が外回りでも、最初の返事が翌日まで止まることがなくなります。

このモデルケースでは、求人票の書き直しにかかる時間は、聞き取りを含めて目安で半日ほどです(就業規則や賃金の決まりが手元にそろっている場合)。

やってみると、こうなる

社長の聞き取りから、求人票の「仕事の内容」を下書きする

入力は架空の例です。出力は、生成AIで実際に試した結果を短くしたものです(毎回少しずつ変わります)。

  1. AIに渡すもの

    社長への聞き取りメモ(運送会社・ドライバーの求人)

    ・4tトラックで地場のルート配送。日帰りのみ ・朝7時に出庫、県内の工場3か所を回って、夕方5時ごろには戻る ・積み込みはフォークリフトが中心。手積みは一部の荷主だけ ・未経験OK。最初の2週間は先輩の助手席で、道と積み方を覚えてもらう ・免許の取得を会社で支援した人がいる(費用の出し方は決めていない) ・長く続いている人は「毎日家に帰れる」「先輩に聞きやすい」と言っている ・できれば20〜30代の男性がほしい。力仕事なので ・休みは日曜と、ほかに月4日くらい

  2. AIが返してくるもの

    AIの下書き「仕事の内容」欄の文案(条件は人が原本で確かめる)

    【仕事の内容】 4tトラックで県内の工場3か所を回る、地場のルート配送です。日帰りの運行のみです。 <1日の流れ> 朝7時に出庫 → 県内の工場3か所を回る → 夕方5時ごろ帰社 積み込みはフォークリフトが中心です(手積みは一部の荷主のみ)。 <未経験の方へ> 未経験の方も応募できます。最初の2週間は先輩の助手席に乗り、道と積み方を覚えていただきます。 長く勤めている社員からは「毎日家に帰れる」「先輩に聞きやすい」という声が出ています。 免許の取得を会社で支援した例もあります。 【社長に確かめること】 ・必要な免許と、取得支援の中身(費用の出し方)。決まるまでは「支援した例もあります」にとどめています ・休日(メモでは「日曜と、ほかに月4日くらい」)は、就業規則で確かめてから条件欄に入れてください ・「20〜30代の男性」というご希望は、性別・年齢で応募者を限る表現になるため書いていません。力仕事の中身(荷の重さ、手積みの量など)を書くと、応募する人が自分に合うか判断しやすくなります

  3. 人が見て直すところ

    • 勤務時間・休日・給与は、就業規則と雇用契約書の原本で確かめて条件欄に入れる
    • 「夕方5時ごろ帰社」が日によって違うなら、実態に合わせて書き方を直す(言い過ぎにしない)
    • 力仕事の中身(荷の重さ・手積みの量)を足し、性別や年齢ではなく仕事の中身で伝える
    • ベテランにも読んでもらい、1日の流れや教え方が事実と違わないか確かめる

自分で試してみる

ChatGPT・Claude・Gemini などに、下の指示文と例をそのまま貼りつけてください。無料版でも試せます。お客さまの名前や住所など、本物の情報は入れずに、この例のまま試してください。

AIへの頼み方(指示文)を見る
あなたは中小企業の求人原稿づくりを手伝うアシスタントです。
次の「社長への聞き取りメモ」から、求人票の「仕事の内容」欄の文案を作ってください。

条件:
・1日の流れ、最初の教え方、未経験でも始められる理由を、メモの言葉を使って具体的に書く
・性別・年齢などで応募者を限る表現は使わない(公正な採用選考に注意する)
・給与・休日・勤務時間などの労働条件は、メモにないことを書かない。決まっていないことは「社長に確かめること」に回す
・「すぐ稼げる」「残業なし」など、メモにない言い過ぎの表現は使わない
・文案のあとに「社長に確かめること」を3つまで挙げる

――――― ここから例 ―――――
・4tトラックで地場のルート配送。日帰りのみ
・朝7時に出庫、県内の工場3か所を回って、夕方5時ごろには戻る
・積み込みはフォークリフトが中心。手積みは一部の荷主だけ
・未経験OK。最初の2週間は先輩の助手席で、道と積み方を覚えてもらう
・免許の取得を会社で支援した人がいる(費用の出し方は決めていない)
・長く続いている人は「毎日家に帰れる」「先輩に聞きやすい」と言っている
・できれば20〜30代の男性がほしい。力仕事なので
・休みは日曜と、ほかに月4日くらい

ここから先を、仕組みにする

試して手ごたえがあったら、毎日の仕事で回る形にします。ここが伴走でお手伝いする部分です。

  • 社長とベテランへの聞き取りの質問を用意し、録音から下書きを作る手順にする
  • 労働条件の明示事項と、たずねてはいけないことの点検表を作り、出す前に人が確かめる
  • 応募が来たら、その日のうちに一次返信を送れる型と担当を決める
この仕組みづくりを相談する →

仕組みを噛み砕くと

イメージとしては、社長の話をじっくり聞いてくれる求人広告の書き手が、社内に一人いるようなものです。ただし、この書き手は条件を決めませんし、誰を採るかも決めません。

段階 入力 AIがやること 人が確認すること
求人原稿 社長・ベテランの聞き取りの録音、いまの求人票 仕事の内容、1日の流れ、教え方、未経験でも始められる理由を下書きする 事実との違い、言い過ぎ
条件の点検 就業規則、賃金の決まり、雇用契約書のひな形 求人票の条件欄と見比べて、食い違いの候補を挙げる 最終的な条件(人が原本で確かめて確定する)
一次返信 応募の通知(名前は記号に置き換える) お礼、見学・面接の候補日、持ち物を伝える文面を下書きする 日程、送る相手、言葉づかい

北海道のハローワークの資料には、交通誘導員の求人票を見直した例が載っています。「専門的な知識が無くても大丈夫!まずは法定研修から受けていただき、その後は先輩が一から丁寧に実際の業務をお伝えする」と書き、未経験でも応募できる理由を具体的に記載することで安心感をもってもらえるように工夫した、と説明されています5。

ハローワーク三条(新潟県)の資料にも、製造業(溶接業務)の求人で、仕事内容欄に「未経験者優遇」「職業訓練修了者優遇」を追記し、書類選考結果を通知するまでの期間を短縮したところ、求人条件に合う対象求職者が6名に増え、1名が応募して充足した例が紹介されています6。書く中身と、返事の早さの両方を見直した例です。聞き取りとAIで目指すのも、こうした「理由まで書いてある」原稿と、早い返事です。

業種によって、聞き取りたいことは少しずつ違います。

業種 聞き取りたいことの例
運送 地場か長距離か、日帰りかどうか、手積み・手降ろしの有無、車両の大きさ、免許取得の支援
介護 夜勤の有無と回数、送迎の有無、利用者の人数、資格取得の支援、記録のやり方
建設 現場の範囲、直行直帰の有無、雨の日の扱い、資格取得の支援、道具の貸し出し
飲食 シフトの組み方、仕込みの時間帯、まかない、忙しい時期の働き方

業種ごとの人手の状況は、運送・物流、介護・福祉、工務店・建設業、飲食店の各ページにまとめています。

AIの部分は、生成AI(ChatGPT・Claude・Geminiなど)の法人向けプランがあれば始められます。求人サイトの掲載枠を増やす前に、いまの求人票の中身を見直すほうが、費用はかかりません。

進め方の例(小さく始める)

ステップ1 いまの求人票と条件の確認(1週目)

会社にお願いするのは、いまの求人票と、就業規則・賃金の決まり・雇用契約書のひな形を渡していただくことです。伴走者は、求人票の条件欄がいまの決まりと合っているかを見比べ、足りない項目を一覧にします。2024年4月1日からは、募集のときに「従事すべき業務の変更の範囲」「就業の場所の変更の範囲」「有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項」も明示することが必要になっています7。

ステップ2 社長とベテランへの聞き取り(1〜2週目)

1人1時間ほど、録音しながら話を聞きます。質問は伴走者が用意します。「新人が最初につまずくのはどこか」「辞めずに続いている人は、何がよかったと言っているか」など、ふだん言葉にしないことを引き出すのが目的です。

ステップ3 原稿の下書きと点検(2〜3週目)

録音からAIで下書きを作り、社長が事実と違うところを直します。条件の数字は、伴走者と社長が原本で確かめます。点検表には、労働条件として明示する事項と、応募者にたずねてはいけないことを入れておきます。

ステップ4 出し直しと、返信の型づくり(4週目〜)

ハローワークや求人サイトに出し直し、あわせて一次返信の型を作ります。応募が来たら、誰が、いつまでに、どの型で返すかを決めておきます。2〜3か月ごとに、問い合わせや応募の数を見ながら原稿を直します。

入社が決まったあとの手順書や教育資料づくりにもAIは使えます。外国人スタッフを迎える場合は、外国人スタッフ向けマニュアルづくりも参考になります。

気をつけたいこと・AIに任せないこと

  • 条件は人が原本で確かめます。 求人票に書く賃金・休日・勤務地などの条件は、AIの文面をそのまま使いません。AIはもっともらしい数字を書くことがあるので、就業規則や雇用契約書と照らし合わせて人が確定します。
  • たずねてはいけないことを入れません。 厚生労働省の「公正な採用選考の基本」は、応募者の基本的人権を尊重することと、応募者の適性・能力に基づいた基準により行うことを挙げています8。適性・能力に関係のない事項は、採用基準としないつもりでも、応募用紙に記載させたり面接時にたずねたりすれば、就職差別につながるおそれがあるとされています8。AIが作った応募フォームや面接の質問、返信文に、仕事の適性や能力と関係のないことをたずねる文面が入っていないか、人が確かめます。
  • 選ぶのは人です。 応募者の書類をAIに読ませて合否を決めることはしません。誰を採るかは、社長や担当者が面接や職場見学を通して判断します。
  • 実態と違うことを書きません。 「残業なし」「すぐ稼げる」など、実態と合わない表現は入社後のトラブルのもとです。下書きの言い過ぎは、社長が実態に合わせて直します。
  • 応募者の個人情報はAIに入れません。 返信文は記号で下書きし、名前は送るときに人が入れます。くわしくはAIを使うときの注意点にまとめています。

具体的な対応は、ハローワークや社会保険労務士などの専門家にご確認ください。

伴走者がお手伝いすること

  • いまの求人票と、就業規則・雇用契約書との食い違いの洗い出し
  • 社長とベテランへの聞き取りの質問づくりと、聞き手役
  • 録音から求人原稿の下書きを作る手順(AIへの指示文)づくり
  • 労働条件の明示事項と、たずねてはいけないことの点検表づくり
  • 応募者への一次返信の型と、返す担当・期限の決めごとづくり

採用まわりのほかの使い方は、採用・定着の悩みのページにまとめています。

参考にした資料

  1. 厚生労働省 職業安定局「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」報道発表資料(2026年10月2日) https://www.mhlw.go.jp/content/11602000/001753853.pdf ↩

  2. 厚生労働省 職業安定局「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」参考統計表6(職業別、全国計、常用・パート含む、原数値) https://www.mhlw.go.jp/content/11602000/001753011.pdf ↩

  3. 公益社団法人全日本トラック協会「物流の2024年問題対応状況調査結果」(2025年3月公表、4月7日一部修正。運送事業者対象、調査期間2024年11月21日〜2025年1月15日、インターネット調査、2,973事業者が回答) https://jta.or.jp/wp-content/uploads/2025/03/chosa20250331kekka.pdf ↩

  4. 厚生労働省 ハローワークインターネットサービス「応募したくなる求人へ!」 https://www.hellowork.mhlw.go.jp/enterprise/ent_inputmethod04.html ↩

  5. ハローワーク(北海道労働局)「求人票のコンサルティング」 https://jsite.mhlw.go.jp/hokkaido-hellowork/content/contents/001.pdf ↩

  6. ハローワーク三条(新潟労働局)「求人条件、そのままでいいですか?」(令和8年3月) https://jsite.mhlw.go.jp/niigata-hellowork/content/contents/002585488.pdf ↩

  7. 厚生労働省「職業安定法施行規則改正|労働条件明示等」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/r0604anteisokukaisei1.html ↩

  8. 厚生労働省「公正な採用選考の基本」 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/basic.html ↩ ↩2