よくある現場の風景

午前7時45分。事務所の複合機が、取引先からの注文書を次々に吐き出します。スーパーの本部からは決まった様式の表、飲食店からは手書きのメモのような紙、旅館からは「いつもの」と1行だけ書かれたFAX。多い日は80枚近くになります。

常務とベテラン事務の2人は、それを1枚ずつ見ながら販売管理ソフトに打ち込みます。「細そば」は「生そば(細)」のこと。この旅館の「いつもの」は「つゆ1L×6本と生そば30玉」。取引先ごとのくせは、2人の頭の中に入っています。かすれた手書きの「3」と「8」を見分けるのも経験です。

締めは10時半。それまでに入力を終えないと、昼の配送と午後の製造の段取りに間に合いません。途中で「さっきのFAX、1箱追加で」と電話が入り、手元の紙に赤で書き足します。ベテランが休んだ日は、常務がひとりで昼過ぎまで入力に追われます。

FAXでの受注が残っているのは、この会社だけではありません。製造業の受注業務担当者329名を対象にした調査では、紙書類のやり取りがある担当者の73.3%が「FAXによる書類の受領が発生している業務がある」と答えています1。FAXで受け取った書類の内容を受注システムに入れる方法は、60.4%が「手入力している」でした1。FAXをやめられない理由で最も多かったのは「取引先がFAXを利用しているため、他のツールに移行できない」で、63.0%です1。この調査は2024年に公表されたもので、注文書の読み取りサービスなどを提供するAI inside社が行っています。

AIを入れると、こう変わる

まず、FAXを紙ではなくデータ(PDF)で受け取れるように、複合機の設定を変えます。取引先の送り方は今までどおりです。

届いた注文書は、AIが読み取って「取引先・品名・数量・納品日・備考」の表にします。「細そば」のような略称や「いつもの」は、過去の出荷記録と商品の一覧から候補を当てはめます。読み取りに自信がない箇所や、ふだんと数量が大きく違う行には色がつきます。

常務とベテランの仕事は、画面で注文書の原本と表を並べ、色のついたところを中心に確かめることです。問題がなければ、販売管理ソフトにまとめて取り込みます。電話で入った追加は、これまでどおり人が書き足します。

このモデルケースでは、毎日注文してくる取引先が多く、過去の出荷記録もそろっているので、入力にかかる時間は目安で半分ほどになります。確認の手順が決まっているので、ベテランが休みの日はパートのスタッフが確認役に入れます。「入力できるのは2人だけ」の状態から抜け出せるのが、時間以上に大きな変化です。

やってみると、こうなる

手書きのFAX注文書から、受注入力用の表を作る

入力は架空の例です。出力は、生成AIで実際に試した結果を短くしたものです(毎回少しずつ変わります)。

  1. AIに渡すもの

    今朝届いたFAXの注文書2枚(文字に起こしたもの)

    □は、かすれて読めない文字

    【1枚目】7:52受信 そば処A(〇〇市) いつもお世話になります。下記お願いします。 ・細そば 30玉 ・うどん 2ケース ・つゆ 1L □本 納品:明日 午前中 【2枚目】8:05受信 B旅館 いつものをお願いします。今週は団体さんが入るので、そばだけ倍で。

  2. AIが返してくるもの

    AIの下書き受注入力用の表(確定前)

    取引先品名数量納品日確認すること
    そば処A生そば(細)30玉明日 午前中元は「細そば」
    そば処A生うどん2ケース明日 午前中元は「うどん」。単位はケースのまま
    そば処Aそばつゆ 1L要確認明日 午前中元は「つゆ 1L」。本数が読めない
    B旅館そばつゆ 1L6本要確認元は「いつもの」。納品日の記載なし
    B旅館生そば(並)要確認要確認元は「いつもの」(30玉)。「そばだけ倍」の指定あり。計算はしていない

    取り込む前に確かめること:① そば処Aのつゆの本数(原本がかすれて読めません) ② B旅館の納品日と、「そばだけ倍」にしたときの生そばの数量

  3. 人が見て直すところ

    • 読めなかったつゆの本数は、原本を見直すか、そば処Aに電話で確かめて入れる
    • 「そばだけ倍」の数量と納品日は、人が決めて入れる(迷うときはB旅館に確認)
    • 「明日」を日付に直し、販売管理ソフトの商品コードと合っているかを見る
    • 電話で入った追加(「さっきのFAXに1箱追加」など)は、この表に人が書き足す

自分で試してみる

ChatGPT・Claude・Gemini などに、下の指示文と例をそのまま貼りつけてください。無料版でも試せます。お客さまの名前や住所など、本物の情報は入れずに、この例のまま試してください。

AIへの頼み方(指示文)を見る
あなたは製麺所の受注係のアシスタントです。
次の「FAXの注文書」を読み取り、受注入力用の表にしてください。

商品一覧:生そば(細)/生そば(並)/生うどん/そばつゆ 1L/そばつゆ 500ml
B旅館の「いつもの」:そばつゆ 1L×6本、生そば(並)30玉

条件:
・「取引先/品名/数量/納品日/確認すること」の5列の表にする
・品名は商品一覧の名前に当てはめ、当てはめたときは「確認すること」に元の書き方を書く
・読めない文字や、書いていないことは推測で埋めず「要確認」と書く
・数量の計算(倍にする、ケースを玉に直すなど)はしない。計算が要るところは「要確認」にする
・表のあとに、取り込む前に人が確かめることを2つまで書く

――――― ここから例 ―――――
□は、かすれて読めない文字
【1枚目】7:52受信 そば処A(〇〇市)
いつもお世話になります。下記お願いします。
・細そば 30玉
・うどん 2ケース
・つゆ 1L □本
納品:明日 午前中
【2枚目】8:05受信 B旅館
いつものをお願いします。今週は団体さんが入るので、そばだけ倍で。

ここから先を、仕組みにする

試して手ごたえがあったら、毎日の仕事で回る形にします。ここが伴走でお手伝いする部分です。

  • FAXをPDFで受け取り、決まったフォルダに入ったら表ができる流れにする
  • 商品一覧と過去の出荷記録を読ませて、略称や「いつもの」を当てはめる精度を上げる
  • 確認済みの表を、販売管理ソフトの取り込み形式(CSV)で出す
  • 注文書のデータを、日付と取引先で決まった場所に保存するルールを決める
この仕組みづくりを相談する →

仕組みを噛み砕くと

イメージとしては、取引先ごとのくせを覚えた新人の事務員さんが、FAXを読んで下書きの表を作り、「ここは自信がありません」と付箋を貼って渡してくれるようなものです。確定のハンコを押すのは、これまでどおりベテランです。

流れ 中身 担当
1. 受け取る FAXをPDFで受け取り、決まったフォルダに自動で保存する 複合機・FAXのデータ受信
2. 読み取る 紙の文字を読み取る機能(AI-OCR)や生成AIで、品名・数量・納品日などを表にする AI
3. 当てはめる 略称や書き方の違いを、商品の一覧・取引先の一覧・過去の出荷記録と照らして、正式な名前とコードに直す AI
4. 確かめる 色のついた箇所、数量、納品日、単価を原本と見比べる 人
5. 取り込む 販売管理ソフトの取り込み機能(CSV)で入れる。機能がなければ、パソコン操作を自動でくり返すソフト(RPA)で入力する 人が実行

読み取りには、注文書の読み取りに特化したサービスを使う方法と、生成AIの法人向けプランで読む方法があります。特化したサービスの料金の例として、業界団体ASPICの紹介ページでは、発注書向けのあるAI-OCRが月額30,000円〜(初期費用・オプション費用別途)と案内されています2。料金は2026年11月に確かめた掲載内容で、変わることがあります。生成AIで読む方法は、表の形をそろえるための指示文の工夫が要ります。注文書の枚数や様式の数を見て選びます。

大事なのは3の「当てはめる」です。現場で手間がかかっているのは、文字を読むことよりも、「細そば」を正しい商品コードに直すような、取引先ごとのくせの部分です。ここは会社の商品の一覧と出荷記録を使って、少しずつ精度を上げていきます。

公開されている取り組み

従業員100人以下の会社の例ではありませんが、FAX受注の入力にAIを使った例が公開されています。

電子情報技術産業協会(JEITA)の事例集では、フライスター(神奈川県横浜市、従業員166人)が紹介されています3。月間の受注件数はおよそ15,000件で、そのうちの9,500件がFAX受注となっており、基幹システムに手入力していたといいます3。受注AIエージェントの導入で、月間およそ15,000件のうち5,500件程度の入力がAIエージェントに置き換わったと書かれています3。

途中のつまずきも書かれています。FAXで届いた注文書をPDF化したところ、商品名や注文数が文字化けしてしまうこともあったそうです3。その後、出荷実績をAIに読み込ませることで、顧客が略称を用いて注文しても、正しい企業名や企業コードを基幹システムから持ってこられるようになったといいます3。

始め方も参考になります。導入当初は熟練の従業員が手入力したほうが早く、正確性も高かったため、AIで入力する顧客を一定程度に絞ったそうです3。いまも最終的には人の目で確認していて、修正する量は日々減ってきていると紹介されています3。基幹システムとは、RPAで動かすことで連携させています3。

日本商工会議所の「日商 Assist Biz」では、従業員316人のJマテ.カッパープロダクツ(新潟県上越市)が、営業事務でFAXをペーパーレス化し、AI-OCRとRPAを連携した処理にしたことで204時間の工数を削減したと紹介されています(期間の記載はありません)4。

進め方の例(小さく始める)

ステップ1 注文書の棚卸し(1〜2週目)

1ヶ月分のFAXを、取引先ごとに数えます。会社にお願いするのは、注文書の束(またはコピー)と、販売管理ソフトから書き出した商品の一覧・取引先の一覧です。伴走者は、取引先ごとの枚数、様式、手書きの有無を一覧にします。上位の数社で枚数の多くを占めているなら、そこから始めるのが近道です。複合機でFAXをPDFとして受け取れるかも、ここで確かめます。

ステップ2 取引先を絞って試す(3〜6週目)

最初から全部の取引先を対象にはしません。毎日注文があり、様式が決まっている取引先を5〜10社選びます。公開事例のフライスターでも、最初はAIで入力する顧客を絞っていました3。この期間はいつもどおり手入力も続け、AIの表と見比べて、読み違いのくせを洗い出します。

ステップ3 置き換えの表を育てる(2ヶ月目)

「細そば→生そば(細)」のような略称の対応表を作り、過去の出荷記録と合わせてAIに読ませます。確認のときに見る項目(数量・納品日・単価・備考)のチェックリストもここで決めます。

ステップ4 取り込みと保存のルールを決める(3ヶ月目以降)

確認済みの表を販売管理ソフトに取り込む手順と、受け取った注文書のデータを保存する場所・名前の付け方を決めます。そのうえで、対象の取引先を少しずつ広げます。

数百万円の受注システムを入れて取引先に入力をお願いするのではなく、取引先の送り方はそのままに、受け取ってからの作業を変えるのがこの方法の特徴です。受注まわりの悩みは受発注・在庫・転記の悩みのページにもまとめています。

気をつけたいこと・AIに任せないこと

  • 確定は人が行います。 AIは読み違えます。とくに数量、納品日、単価は、原本と見比べてから取り込みます。
  • 電話やメールでの変更は、AIの外で起きます。 「さっきのFAXに1箱追加」のような変更を、どこに書き足すかを決めておきます。
  • 取引先の情報の扱いを決めます。 注文書には取引先名や担当者名が載っています。法人向けプランを使い、入力した内容の扱いを各社の規約で確かめます。詳しくはAIを使うときの注意点をご覧ください。
  • 注文書の保存のしかたを確かめます。 国税庁の電子帳簿保存法の一問一答では、注文書などに通常記載される事項が「取引情報」にあたり、その授受を電磁的方式で行う取引が「電子取引」とされています5。ペーパーレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用する取引なども「電子取引」に該当すると考えられ、所定の方法で取引情報のデータを保存しなければならないとされています5。電子データと書面で同じ内容を受け取った場合の扱いも、同じ資料に示されています5。FAXをデータで受け取るように変えると扱いが変わる可能性があるので、変える前に税理士や税務署に確かめてください。

具体的な対応は、所管の窓口や専門家にご確認ください。

伴走者がお手伝いすること

  • 注文書の棚卸しと、最初に対象にする取引先の選び方
  • 読み取りの道具選び(専用サービスか、生成AIか)と試験
  • 略称の対応表と、商品・取引先の一覧の整理
  • 確認画面とチェックリスト、販売管理ソフトへの取り込み手順づくり
  • 注文書データの保存ルールの整理(税理士に確かめる点のまとめ)

製造業・町工場での使い方は業種ページにまとめています。

参考にした資料

  1. AIsmiley「AI inside 製造業の受注業務に関する実態調査」(AI inside株式会社の調査結果の紹介記事、2024年9月) https://aismiley.co.jp/ai_news/aiinside-ai-survey-results-manufacturing-industry-order-work/ ↩ ↩2 ↩3

  2. 一般社団法人 ASP・SaaS・AI・IoT クラウド産業協会(ASPIC)「発注書AI-OCR (invox)とは?料金や機能・特徴を解説」(2026年11月2日確認) https://www.aspicjapan.org/asu/service/81196 ↩

  3. 一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)IT プラットフォーム事業委員会「IT ユーザトレンド調査(2025)AI 関連事例紹介」(2026年3月) https://home.jeita.or.jp/it/file/jirei0316.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9

  4. 日本商工会議所 日商 Assist Biz「産学官金の「地産地消のDX」を推進 新潟県上越市 Jマテ.カッパープロダクツ DX成功への道しるべ」(2025年5月) https://ab.jcci.or.jp/article/110887/ ↩

  5. 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和6年6月) https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0024005-113_r603.pdf ↩ ↩2 ↩3