よくある現場の風景

月が明けた最初の月曜日。総務課長が、会計ソフトから先月の試算表を書き出しています。続いて販売管理ソフトから取引先ごとの売上、現場の作業日報から製品ごとの加工時間。形の違うExcelを並べて、毎月の会議資料の表に数字を一つずつ貼りつけていきます。

途中で合計が合わなくなり、どこで貼り間違えたかを探して1時間。値引きや返品の扱いも、月によって違います。グラフを作り直して資料ができあがるのは、2日目の夕方です。

月次の会議では、社長が売上の前年比を見て「先月は少し落ちたね」と言い、話は来月の段取りに移ります。どの製品で儲けて、どの取引先で手間ばかりかかっているのかは、誰もはっきり言えません。材料費が上がっても、どの取引先にいくら値上げをお願いすべきか、根拠になる数字がないままです。

AIを使う中小企業でも、数字の分析にまで使っているところは、まだ一部です。中小機構が2025年11〜12月に10,000社を対象に行った調査では、AIの導入率は20.4%でした1。導入しているツールは、AIでは「生成AI」(82.6%)、ITでは「クラウド会計・給与計算」(69.4%)が進んでいます1。その一方で、高度な分析や予測系のツールは活用が広がっていないと報告されています1。

AIを入れると、こう変わる

月初の作業は、決まったデータを書き出して、決まったフォルダに置くところから始まります。会計ソフトの試算表、販売管理の売上明細、作業時間の表です。そのうえで集計用のExcelを開くと、売上・原価・粗利の表とグラフが、毎月同じ形でできあがります。

次に、AIに集計表を読ませ、先月や前年同月と比べて目立つ動きをまとめてもらいます。「A社向けの売上は横ばいだが、材料費の上昇で粗利が下がっている」「製品Bは加工時間が先月より増えている」。こうした気づきの下書きが、資料の1枚目に並びます。

課長の仕事は、表の合計が試算表と合っているかを確かめ、AIのメモのうち事実と違うものを消すことです。社長はそのメモに自分の見立てを足して、会議に臨みます。

このモデルケースでは、資料づくりは2日がかりから半日ほどになるのが目安です(毎月同じ形でデータを書き出せる場合)。会議は「何が起きたか」の報告ではなく、「なぜか」「次にどうするか」から話せるようになります。

やってみると、こうなる

月次の集計表から、会議で話す要点のメモを作る

入力は架空の例です。出力は、生成AIで実際に試した結果を短くしたものです(毎回少しずつ変わります)。

  1. AIに渡すもの

    会計ソフト・販売管理から書き出し、集計表にまとめた数字(抜粋)

    10月分/金額は千円/取引先名は記号/粗利率は表計算の式で出したもの

    ■ 取引先別 売上(10月/9月/前年10月)|粗利率(10月/9月) A社:4,820/4,790/4,750|18.2%/24.5% B社:2,310/2,950/2,880|31.0%/30.6% C社:1,640/1,210/980|27.4%/26.9% ■ 試算表より 材料費:10月 7,350/9月 6,880 ■ 作業日報より 製品Bの加工時間:10月 182時間/9月 141時間

  2. AIが返してくるもの

    AIの下書き会議用の要点メモ(下書き)

    【10月の目立つ動き】 ・A社:売上は4,820千円で9月(4,790千円)とほぼ同じですが、粗利率は24.5%から18.2%に下がっています。 ・B社:売上が9月の2,950千円から2,310千円に減っています。前年10月は2,880千円でした。粗利率は30.6%から31.0%で、大きな動きはありません。 ・C社:売上が9月の1,210千円から1,640千円に増え、前年10月の980千円も上回っています。 ・材料費が9月の6,880千円から7,350千円に、製品Bの加工時間が141時間から182時間に増えています。 【会議で確かめたいこと】 ・A社の粗利率が下がったことと、材料費が増えたことは関係がありますか。この表だけでは分かりません。 ・B社の売上が減ったのは、10月だけの動きですか。それとも注文の流れが変わっていますか。 ・製品Bの加工時間が増えたのは、作った数が増えたためですか、1個あたりの時間が増えたためですか。この表からは分かりません。

  3. 人が見て直すところ

    • メモの数字が集計表と合っているかを、1つずつ確かめる(AIが写し間違えることがある)
    • A社の粗利率が下がった理由は、営業と現場に聞いて、社長の見立てを書き足す
    • 製品Bの作った数など、表にない数字で答えられる問いは、会議の前に調べておく

自分で試してみる

ChatGPT・Claude・Gemini などに、下の指示文と例をそのまま貼りつけてください。無料版でも試せます。お客さまの名前や住所など、本物の情報は入れずに、この例のまま試してください。

AIへの頼み方(指示文)を見る
あなたは中小企業の社長の、月次会議の準備を手伝うアシスタントです。
次の「月次の集計表(抜粋)」を読んで、会議で話す要点のメモを作ってください。

条件:
・先月や前年同月と比べて目立つ動きを、4つまで箇条書きにする
・数字は表にあるものをそのまま使う。差・合計・割合を新しく計算しない
・理由は決めつけない。考えられることは「会議で確かめたいこと」として問いの形で書く
・表から分からないことは、分からないと書く

――――― ここから例 ―――――
10月分/金額は千円/取引先名は記号/粗利率は表計算の式で出したもの
■ 取引先別 売上(10月/9月/前年10月)|粗利率(10月/9月)
A社:4,820/4,790/4,750|18.2%/24.5%
B社:2,310/2,950/2,880|31.0%/30.6%
C社:1,640/1,210/980|27.4%/26.9%
■ 試算表より 材料費:10月 7,350/9月 6,880
■ 作業日報より 製品Bの加工時間:10月 182時間/9月 141時間

ここから先を、仕組みにする

試して手ごたえがあったら、毎日の仕事で回る形にします。ここが伴走でお手伝いする部分です。

  • 書き出したデータを決まったフォルダに置くと、集計表(計算式入り)が毎月同じ形でできるようにする
  • 集計表の合計が試算表と合っているかを確かめる欄を作る
  • 集計表を読ませる指示文を整え、要点のメモが資料の1枚目に入る流れにする
  • 取引先名は記号にするなど、会社の数字をAIに入れるときの社内ルールを決める
この仕組みづくりを相談する →

仕組みを噛み砕くと

イメージとしては、毎月同じ手順で数字を集め、気づいたことを付箋に書いて渡してくれる、几帳面な経理補助さんのようなものです。ただし、この経理補助さんは、計算の答えと最終判断には責任を持ちません。

材料になるのは、どの会社にもある次の3種類のデータです。

材料 どこから出すか 業種による違いの例
試算表(月ごとの売上と費用の一覧) 会計ソフトから書き出す どの業種も共通
売上の明細 販売管理・請求書のソフト、レジ 製造業は製品・取引先ごと、小売は部門・品目ごと、建設業は工事ごと
原価のもと 仕入れの記録、外注費、作業日報 製造業は材料費と加工時間、小売は仕入れと廃棄、建設業は実行予算と実績

使うときの流れは次のとおりです。

  1. 入力:会計ソフトや販売管理から書き出したCSV・Excelのファイル
  2. 集計:表計算の式とピボットテーブル(項目ごとに自動で集計する表)で、売上・原価・粗利を出す。AIには計算させません
  3. AIがやること:集計表を読み、先月・前年同月との違いや目立つ動きを文章にする。グラフの案を出す。「粗利が下がった取引先は?」といった質問に答える
  4. 人が確認すること:合計が試算表と合っているか。AIのメモが表の数字と合っているか。数字の理由をどう読むか
  5. 出てくるもの:A4で1〜2枚の月次資料と、会議で話すことのメモ

道具は2通りあります。ExcelやGoogleスプレッドシートに組み込まれたAI機能を使う方法と、ChatGPT・Claude・Geminiなどに集計表を読ませる方法です。Microsoftのサポートページによると、ExcelのCopilotは、プロンプト(指示文)に基づいてデータと数式を生成し、データを集計できます2。データについて質問して、分析情報を特定することもできます2。Copilotの推論や、ブックへの変更が反映されたことは、ウィンドウで確認できるとされています2。

料金の例として、Microsoft 365 Copilot Businessは1ユーザーあたり月額$21と発表されています3。対象は、Microsoft 365 Businessプランで300ユーザー未満の組織です3。Google WorkspaceのBusiness Standardは、1ユーザーあたり月払いで¥1,900、年間プランで¥1,600です(いずれも税別)4。どちらも2026年11月時点の公式の情報です。円での価格や使えるAI機能の範囲は変わることがあるので、契約前に公式で確かめてください。毎月の資料づくりなら、使う人は社長と経理担当の1〜2人で足ります。

進め方の例(小さく始める)

ステップ1 数字の棚卸しと「見る数字」を絞る(1〜2週目)

会社にお願いするのは、今の月次資料と、会計ソフト・販売管理から書き出せるデータを見せていただくことと、1時間ほどの聞き取りです。伴走者は、どの数字がどこにあり、どれを手作業で集めているのかを一覧にします。そのうえで、会議で本当に見たい数字を3つほどに絞ります。

全部を一度に見えるようにする必要はありません。中小機構の伴走支援の事例に、食品製造業の宮野食品工業所があります。課題は「あいまいな原価管理」「勘と経験による意思決定」だったと紹介されています5。同社は売上高上位7品目に絞って、製造原価の内訳と取引先別の粗利の状況を見えるようにしました5。事例のページには「ここ数年、増収増益が続いており取組の成果が出てきている」と書かれています5。

ステップ2 集計表を作り、先月分で答え合わせ(3〜4週目)

伴走者が、書き出したデータを読み込んで売上・原価・粗利を出す集計表を作ります。先月分を手作業の資料と並べ、合計が一致するまで直します。データの書き出し方(期間、項目、ファイル名)は手順書にします。

紙の伝票や手書きの日報が多い場合は、ここでデータのそろえ方から考えます。中小機構の同じ調査では、AIの導入率は、大部分がIT化されている企業で56.8%、ほとんどが手作業である企業で26.7%でした1。約30ポイントの差です1。

ステップ3 AIのメモを足して会議で使う(2ヶ月目)

集計表をAIに読ませる指示文を整え、気づきのメモを資料に入れます。最初の数回は、課長がメモを一つずつ確かめ、外れたものの理由を伴走者と見直します。

ステップ4 見る数字を広げる(3ヶ月目以降)

製品別から取引先別へ、部門別から品目別へと、見る数字を少しずつ広げます。値上げのお願いや、手間のかかる仕事の見直しに数字を使えるようになるのは、このあたりからです。

同じ調査では、AI導入の壁として「導入にあたっての高コスト」(46.9%)や「社内のAIノウハウ不足」(42.0%)が挙がっています1。ここまでを、数百万円の分析システムを入れるのではなく、今の会計ソフトとExcelを活かして作ります。詳しくは数字の見える化の悩みのページもご覧ください。

気をつけたいこと・AIに任せないこと

  • 計算はAIにさせません。 合計・粗利・割合は表計算の式で出し、毎月、試算表の合計と照らし合わせる欄を作ります。AIが文章の中で書く数字も、表の数字と合っているかを確かめます。
  • 数字の理由は、人が考えます。 「なぜ下がったか」は、現場や営業の話を聞いて判断します。AIのメモは、話を始めるきっかけです。
  • 会社の数字を入れるルールを決めます。 取引先別の売上や給与は、社外に出せない情報です。学習に使われない法人向けのプランを使い、取引先名は記号にするなど、入れてよい範囲を決めます。日本商工会議所の調査に寄せられた声には、こんなものもありました。「従業員が個人で生成AIを活用しているが、会社として把握できていない」(春日井の金属製品製造業)6。詳しくはAIを使うときの注意点をご覧ください。
  • 税金や決算の判断は税理士に。 この仕組みは社内の会議のための資料です。税務や決算の扱いは、これまでどおり税理士に相談します。
  • 使いたいAI機能が今の契約で使えるかを確かめます。 Microsoftのサポートページによると、Copilotが表示されないときは、契約(サブスクリプション)に含まれていないか、組織の設定で使えない可能性があります2。

伴走者がお手伝いすること

  • 今の月次資料と、数字のありかの棚卸し
  • 会計ソフト・販売管理からの書き出し手順と、集計表(計算式入り)の設計
  • 集計表を読んで気づきをまとめる、AIへの指示文づくり
  • 会社の数字をAIに入れるときの社内ルールづくり
  • 会議での使い方の相談と、見る数字を広げるときの調整

製造業なら、FAXの注文書の読み取りと組み合わせると、売上の明細づくりも軽くなります。業種ごとの使い方は、各業種のページにまとめています(製造業・小売・商店・工務店・建設業)。

参考にした資料

  1. 独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月、調査実施は株式会社東京商工リサーチ) https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_report.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  2. Microsoft サポート「Excel の Copilot の使用を開始する」(2026年11月2日確認) https://support.microsoft.com/ja-jp/excel/copilot/get-started-with-copilot-in-excel ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  3. Microsoft(Windows Blog for Japan)「Microsoft 365 Copilot Business のご紹介 AI で中堅中小企業のビジネスを支援」(2025年12月11日) https://blogs.windows.com/japan/2025/12/11/introducing-microsoft-365-copilot-business-empowering-small-and-medium-businesse/?amp=1 ↩ ↩2

  4. Google「Google Workspace Business エディションの AI 機能と料金の更新」(Google Workspace ナレッジセンター、2026年11月2日確認) https://knowledge.workspace.google.com/admin/billing/ai-features-and-pricing-updates-for-google-workspace-business-editions?hl=ja ↩

  5. 独立行政法人中小企業基盤整備機構「製造原価の見える化とデータに基づく合理的な意思決定への挑戦(伴走支援事例)」(2026年11月2日確認) https://bansoushien.smrj.go.jp/case/detail_335/ ↩ ↩2 ↩3

  6. 日本商工会議所「商工会議所LOBO(早期景気観測)2026年8月調査結果」(2026年8月31日) https://cci-lobo.jcci.or.jp/wp-content/uploads/2026/08/LOBO202608.pdf ↩