よくある現場の風景

朝7時。開店前のバックヤードで、ベテランのパートさんが発注端末を手に、日配の棚と冷蔵ケースを見て回っています。豆腐、納豆、牛乳、卵。明日の分の数を、ほとんど迷わずに打ち込んでいきます。長年この店の発注を任されてきた人の勘です。

厨房では、惣菜の担当が弁当と揚げ物の仕込み量を決めています。参考にしているのは、壁に貼った先週の販売メモと、朝の天気予報。「今日は雨だから、唐揚げ弁当は少なめに」。当たる日もあれば、外れる日もあります。

困るのは、そのベテランが休んだ日や、地域の行事が重なった日です。秋祭りの日に惣菜が昼前に売り切れたかと思えば、雨の土曜日には閉店前に半額シールが並ぶ。廃棄の量は毎日ノートにつけていますが、次の発注に活かす人も時間もありません。

国の推計では、令和6年度の事業系の食品ロスは237万tで、そのうち食品小売業が48万t、外食産業が70万tとされています1。一方で、需要予測のAIを使っている中小企業はまだ少数です。中小機構が2025年11〜12月に行った調査では、AIを導入済みの企業322社のうち、需要予測AIを使っているのは8.1%でした2。いちばん多いのは生成AIで、82.6%です2。

AIを入れると、こう変わる

朝、発注担当がパソコンを開くと、日配と惣菜の主な品目について「明日の発注の目安」が並んでいます。過去の販売記録に、明日の天気予報と曜日、地域の行事を合わせ、似た日の実績から出した数です。

目安の横には、AIが書いたひと言のメモがつきます。「明日は雨の土曜日。過去の似た日は、弁当がいつもより少なめ。ただし小学校の運動会の振替休日で、昼のおにぎりは多めに出ています」。担当者はこのメモを読みながら、最終の数を決めます。特売を打つ品目や、近所で法事が入っている日など、店の人しか知らない事情はここで足します。

週に1回は、AIが1週間の廃棄と品切れをまとめます。「木曜日の厚揚げが3週続けて余っている」「雨の日の唐揚げは目安より売れた」といった振り返りが、表とひと言で出てきます。これを見て、目安の出し方のくせを少しずつ直していきます。

このモデルケースでは、発注にかかる時間は、毎朝40分ほどから20分ほどになるのが目安です(主な品目の販売記録が半年分以上ある場合)。何より、ベテランが休んだ日でも、ほかの人が目安と理由を見て発注の下書きを作れるようになります。

やってみると、こうなる

販売の台帳と天気・行事から、明日の発注の手がかりを並べる

入力は架空の例です。出力は、生成AIで実際に試した結果を短くしたものです(毎回少しずつ変わります)。

  1. AIに渡すもの

    販売の台帳の抜粋(レジの書き出しに、天気と行事を足した表)

    惣菜部門 品目:唐揚げ弁当/鮭おにぎり/いなり寿司(4個入り)

    【明日の条件】10/10(土)予報:雨のち曇り 最高18℃  行事:〇〇小 運動会(雨天なら12日(月)に延期) 【販売の台帳から抜き出した日】販売数は 弁当/おにぎり/いなり 10/3(土) 晴れ 行事なし      36/50/12 9/26(土) 雨  行事なし      22/38/8 9/12(土) 雨  行事なし      25/41/9 昨年10/11(土)くもり 〇〇小 運動会 44/96/31 昨年9/27(土)雨 △△中 体育祭→延期 27/45/10

  2. AIが返してくるもの

    AIの下書き発注の手がかり(数は担当者が決める)

    品目明日に近い日と販売数ひと言メモ
    唐揚げ弁当行う場合:昨年10/11(44)/延期の場合:9/26(22)、9/12(25)、昨年9/27(27)雨の土曜は、晴れの10/3(36)より少なめ。運動会の日は、どの土曜より多い
    鮭おにぎり行う場合:昨年10/11(96)/延期の場合:9/26(38)、9/12(41)、昨年9/27(45)運動会の日は、ほかの土曜よりはっきり多い。延期になった昨年9/27も、ふだんの雨の土曜よりやや多め
    いなり寿司(4個入り)行う場合:昨年10/11(31)/延期の場合:9/26(8)、9/12(9)、昨年9/27(10)運動会の日だけ大きく出ている。延期の場合は、ふだんの雨の土曜に近い

    発注の前に確かめること:① 運動会を明日行うか、12日(月)に延期するか(学校の判断がいつ出るか) ② 延期の場合、運動会の分を12日(月)の発注に回すか ③ 昨年10/11と9/27に、売り切れや売れ残りがなかったか(表は販売数だけなので分かりません)

  3. 人が見て直すところ

    • 運動会を行うか延期するかは、学校の連絡で確かめてから数を決める。決まるのが遅いなら、両方の場合の数を書いておく
    • 昨年の運動会の日は、おにぎりが昼前に売り切れていた(店の人の記憶)。96個は「売れた数」なので、欲しかった人はもっといたと見て数を決める
    • 特売のチラシに載せた品目や、仕入れ先の欠品は、AIは知らない。ここで担当者が足す

自分で試してみる

ChatGPT・Claude・Gemini などに、下の指示文と例をそのまま貼りつけてください。無料版でも試せます。お客さまの名前や住所など、本物の情報は入れずに、この例のまま試してください。

AIへの頼み方(指示文)を見る
あなたは食品スーパーの発注担当のアシスタントです。
次の「明日の条件」と「販売の台帳から抜き出した日」を読んで、明日の発注を考えるための手がかりを、品目ごとに整理してください。

条件:
・「品目/明日に近い日と販売数/ひと言メモ」の3列の表にする
・計算はしない(平均・合計・何割増しなどは出さない)。販売数は表の数字をそのまま書き写す
・発注の数は決めない。最後に数を決めるのは発注担当者
・表にないこと(特売、仕入れ先の事情、売り切れた時刻など)は推測で書かない
・表のあとに、発注の前に店で確かめたほうがよいことを3つまで挙げる

――――― ここから例 ―――――
惣菜部門 品目:唐揚げ弁当/鮭おにぎり/いなり寿司(4個入り)
【明日の条件】10/10(土)予報:雨のち曇り 最高18℃
 行事:〇〇小 運動会(雨天なら12日(月)に延期)
【販売の台帳から抜き出した日】販売数は 弁当/おにぎり/いなり
10/3(土) 晴れ 行事なし      36/50/12
9/26(土) 雨  行事なし      22/38/8
9/12(土) 雨  行事なし      25/41/9
昨年10/11(土)くもり 〇〇小 運動会 44/96/31
昨年9/27(土)雨 △△中 体育祭→延期 27/45/10

ここから先を、仕組みにする

試して手ごたえがあったら、毎日の仕事で回る形にします。ここが伴走でお手伝いする部分です。

  • レジのデータを書き出して、品目ごと・日ごとの販売の台帳と、天気・行事の表を整える
  • 似た日を選んで目安の数を出すところは、Excelの式で毎朝そろうようにする(AIには計算させない)
  • 週1回、廃棄と品切れの振り返りもAIにまとめさせ、目安の出し方を直す
  • ベテラン以外の人も、目安とメモを見て発注の下書きを作れるようにする
この仕組みづくりを相談する →

仕組みを噛み砕くと

イメージとしては、店の何年分もの売上ノートを覚えている事務員さんが、「去年の似た日はこうでしたよ」と横で教えてくれるようなものです。ただし、この事務員さんは発注のボタンを押しません。

チェーンが使う需要予測は、大がかりな仕組みで動いています。たとえば、ある需要予測サービスは、来店客数の予測に気温や商品の価格を加味して「発注推奨値」を出すと説明しています3。小さな店では、この考え方を、今あるExcelと生成AIで小さく真似ます。

部品 中身 誰が用意する
販売の台帳 レジ(POS)から書き出した、品目ごと・日ごとの販売数。分かる範囲で廃棄数も 最初に伴走者が整え、以後は週1回書き出して足す
天気と行事の表 毎日の天気(晴れ・くもり・雨)と最高気温、曜日、祭り・運動会・給料日・年金支給日などの行事 店長が月初に行事を書き込み、天気は毎日1行
発注の目安シート 似た日の販売数から目安を出す、計算式入りの表 伴走者が今の発注のやり方に合わせて作る

使うときの流れは次のとおりです。

  1. 入力:前日までの販売数と廃棄数、明日の天気予報と行事
  2. 計算:「同じ曜日」「同じ天気」「同じ行事」の過去の日を選び、販売数から目安を出す(計算はExcelの式で行い、AIには計算させません)
  3. AIがやること:目安の表を読み、似た日の様子と注意点をひと言のメモにする。行事のメモ欄(「近所で葬儀」「工場が休み」など)の言葉から、似た日を探す手伝いもする
  4. 人が確認すること:特売、仕入れ先の欠品、急な天気の変化、店の人しか知らない事情。目安から大きく外れそうな品目には印をつけ、そこを重点的に見る
  5. 出てくるもの:品目ごとの発注の下書き。週1回は廃棄と品切れの振り返り

チェーン向けの仕組みほど細かい予測はできません。そのかわり、今あるExcelと月数千円の生成AIで始められ、「なぜこの数なのか」を店の人が説明できます。

公開されている取り組み

需要予測を発注に使った公開事例は、地域のスーパーやチェーンの惣菜部門が中心です。

スーパーのヤマザワ(全70店舗)では、日配品は販売期間が短く、既存の自動発注システムが使えませんでした4。そのため、手作業で発注していたと紹介されています4。AIの需要予測を入れたあとは、AIがピックアップした商品だけを発注担当者が確認する運用になると発表されました4。学習には、販売実績・気象情報・催事情報などのデータを使うとされています4。

日本気象協会とソフトバンクは、スーパーマーケットバローの惣菜部門で、需要予測と値引きの実証を行いました5。使ったのは気象・人流・販売実績のデータで、期間は2026年1月23日から3月12日までです5。発表では、食品廃棄量が12.6%減、発注・計画作業時間が36.5%減(週約127分→約81分)とされています5。

日本気象協会は、気象データを使った生鮮食品の自動発注支援サービスの実証で、発注推奨数の74%がそのまま採用されたと紹介しています6。すべてがそのまま使われたわけではなく、人が手を入れる余地があったことも読み取れます。

小さな店の例では、老舗の和菓子店、竹隆庵岡埜の事例があります。経験に基づく発注判断が属人化し、売れ残りに責任を負う従業員の心理的負担から「少なめ発注となる傾向」があったと紹介されています7。導入後は、昨年度と比較して約57%廃棄を削減できたと書かれていますが、店舗数や期間は示されていません7。

これらの数字は、廃棄を量・金額・率のどれで測ったか、何と比べたかが事例ごとに違うため、並べて比べることはできません。共通しているのは、販売の記録に天気などのデータを足して、発注の数を考えていることです。

進め方の例(小さく始める)

ステップ1 販売記録と行事の棚卸し(1〜2週目)

会社にお願いするのは、レジから書き出せるデータを確かめることと、発注担当の方への1時間ほどの聞き取りです。伴走者は、半年〜1年分の販売データを品目ごと・日ごとの表に整え、天気と行事の表と組み合わせます。「どの品目が、どんな日に、どれだけぶれるか」が一覧になるだけでも、ベテランの勘と照らし合わせる材料になります。

ステップ2 10品目だけで試す(3〜4週目)

いきなり全品目ではなく、廃棄か品切れが多い日配・惣菜の10品目ほどで試します。ベテランがいつもどおり決めた数と、目安シートの数を毎日並べて記録し、ずれの大きい日を一緒に見直します。

ステップ3 ふだんの発注で使う(2ヶ月目)

目安とAIのメモを見ながら発注し、週1回の振り返りで目安の出し方を直します。行事の表の書き方や、特売の日の扱いもここで決めます。

ステップ4 ほかの人にも任せる(3ヶ月目以降)

ベテラン以外の人が目安とメモを見て発注の下書きを作り、ベテランが確認する形に移ります。品目も少しずつ増やします。

チェーン向けの需要予測サービスには、店舗ごとに月額の利用料がかかるものもあります。ある公式ページでは、1店舗あたり月額25,000円、別途企業ごとに本部費用として月額100,000円が必要と案内されています3。料金は2026年11月時点の表示です。

毎月の利用料や数百万円のシステムをかける前に、まずは今あるExcelとレジのデータで始めます。「目安を見て決める」習慣ができていれば、あとで本格的な仕組みを入れるかどうかも判断しやすくなります。詳しくは受発注・在庫・転記の悩みのページもご覧ください。

気をつけたいこと・AIに任せないこと

  • 発注の数を決めるのは人です。 目安は過去の似た日の実績にすぎません。特売、新商品、仕入れ先の欠品、台風のような急な天気の変化は、目安では読めません。
  • 計算はExcelの式で行います。 AIは数字の計算を間違えることがあるので、目安の数はExcelの式で出し、AIにはメモと振り返りの文章だけを任せます。
  • 記録が少ないうちは外れやすくなります。 販売記録の少ない品目や、入れたばかりの新商品は、目安がぶれます。最初の数週間は、ベテランの数と並べて確かめる期間をとります。
  • 値引きと廃棄の記録を残します。 何がどれだけ売れ残ったかが分からないと、目安は直せません。
  • 入れてよい情報を決めます。 仕入れ値や取引条件は社外秘です。学習に使われない法人向けのプランを使い、入れてよい範囲を社内で決めます(AIを使うときの注意点)。

期限や産地、アレルギーなどの食品の表示は、これまでどおり人が確認します。具体的な対応は、所管の窓口や専門家にご確認ください。

伴走者がお手伝いすること

  • レジのデータの書き出し方の確認と、販売の台帳づくり
  • 天気と行事の表、発注の目安シート(計算式入り)の設計
  • 目安のメモと週1回の振り返りを作る、AIへの指示文づくり
  • 試す品目の選び方と、ベテランの数との比べ方の手伝い
  • AIに入れてよい情報・入れない情報の社内ルールづくり

同じ考え方は、飲食店の仕込み量にも使えます。小売・商店での使い方は業種ページにまとめています。毎月の数字のまとめ方は月次の数字のユースケースをご覧ください。

参考にした資料

  1. 農林水産省「食品ロスとは(食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢)」(令和6年度推計値、2026年11月2日確認) https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227_4.html ↩

  2. 独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月、調査実施は株式会社東京商工リサーチ) https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_report.pdf ↩ ↩2

  3. ソフトバンク株式会社「AI需要予測サービス「サキミル」自動発注」(2026年11月2日確認) https://www.softbank.jp/business/service/iot/sakimiru/auto-ordering ↩ ↩2

  4. BIPROGY株式会社「BIPROGY、ヤマザワ全70店舗にAI自動発注サービス「AI-Order Foresight」を導入」(共同通信PRワイヤー、2024年9月27日) https://kyodonewsprwire.jp/release/202409277130 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  5. ソフトバンク株式会社「気象データ・人流データ・AIを活用して需要予測と商品値引きを最適化し、食品スーパーの食品ロス削減と生産性向上を確認」(2026年8月19日) https://www.softbank.jp/business/news/2026/0819-01 ↩ ↩2 ↩3

  6. 一般財団法人日本気象協会「気象データを活用した生鮮食品の自動発注支援サービスを開始」(2023年11月1日) https://weather-jwa.jp/news/info/post1312 ↩

  7. ソフトバンク株式会社「竹隆庵岡埜 導入事例(AI需要予測サービス「サキミル」)」(2025年11月) https://www.softbank.jp/business/case/202511/chikuryuan-okano ↩ ↩2