よくある現場の風景

金曜日の夕方。売主さんの家を見て回った社長が、事務所に戻ってきました。机の上には、物件概要書と図面のコピー、現地で書いたメモ。スマホには30枚ほどの写真があります。週末に問い合わせが増える前に、この中古の戸建てをポータルサイトに載せたいところです。

紹介文は、いつも社長が書いています。図面を見ながら間取りと広さを打ち込み、メモを見ながら「南向きのリビング」「小学校が近い」と良いところを並べる。ポータル用には短く、ホームページ用には少し長く、チラシ用にはさらに言葉を選び直します。このモデルケースでは、1件に30分〜1時間ほどかかります。

困るのは、夜に急いで書くときです。「抜群の住環境」「超お買い得」と書きたくなる言葉が、使ってよいものかどうか迷う。最寄り駅までの徒歩の分数は、地図で測り直す。成約した物件をポータルから下げ忘れていないかも気になります。賃貸の空室が出るたびに、同じ作業が続きます。

若手の営業もいますが、言葉づかいの判断は社長にしかできず、任せきれません。業界全体を見ても、紙と対面のやり方はまだ根強く残っています。国土交通省が令和5年10月に宅建業の5団体の会員企業へ行ったアンケート(有効回答2390件)では、直近1年以内にIT重説(オンラインでの重要事項説明)の実績がある会社は11%、導入予定なしは70%でした1。

AIを入れると、こう変わる

現地では、社長が見て回りながらスマホに話しかけます。「木造2階建て。リビングは南向きで窓が大きい。キッチンは数年前に交換済み。2階の窓から山が見える」。あわせて写真を撮り、どの写真がどの部屋かを一言ずつ添えておきます。

事務所に戻ったら、このメモと物件概要書をAIに渡します。数分で、ポータル用(短め)、ホームページ用(くわしめ)、チラシ用(見出しつき)の3種類の下書きができます。AIへの指示には、会社で決めた「使わない言葉の一覧」と、「書いてよいのは物件資料とメモにあることだけ」という決まりを入れておきます。

社長の仕事は、下書きを物件資料と見比べて確かめることです。面積や間取り、築年数が資料と合っているか。物件の良さを言いすぎていないか。徒歩の分数は、スプレッドシートの計算式で出した数字になっているか。ゼロから書くのではなく、確かめて直すだけなので、作業時間は目安で半分ほどになります(過去の紹介文がある程度そろっていて、物件資料が整っている場合)。

物件が入った当日か翌日に掲載できれば、週末の問い合わせに間に合います。確認表が会社の決まりとして残るので、若手が下書きを作り、宅建士の社長が確かめる分担にも移りやすくなります。

やってみると、こうなる

物件概要と現地メモから、ポータル用の紹介文を下書きする

入力は架空の例です。出力は、生成AIで実際に試した結果を短くしたものです(毎回少しずつ変わります)。

  1. AIに渡すもの

    物件概要書の抜粋と、現地で書いたメモ

    中古戸建て/〇〇市△△町/売買

    【物件概要(抜粋)】 価格 1,980万円/土地 165.20㎡/建物 98.54㎡(木造2階建て)/4LDK 築年月 2004年3月/駐車場 2台(並列)/取引態様 媒介 〇〇小学校 徒歩6分(道路距離450m)/JR〇〇駅 徒歩18分(道路距離1,420m) 【現地メモ】 ・リビングは南向き、掃き出し窓が大きい ・キッチンは数年前に交換済み(売主さんの話。年は未確認) ・2階の洋室の窓から山が見える。眺め最高 ・前の道は車が少なめ(平日の夕方に見た) ・スーパーは車ですぐらしい(距離は未確認)

  2. AIが返してくるもの

    AIの下書きポータル用の紹介文の下書き

    南向きのリビングに大きな掃き出し窓がある、木造2階建て・4LDKの中古戸建てです。土地は165.20㎡、建物は98.54㎡。駐車場は並列で2台分あります。 キッチンは交換済みです。2階の洋室の窓からは、山の景色が見えます。 〇〇小学校まで徒歩6分、JR〇〇駅まで徒歩18分。建物は2004年3月築です。 【掲載前に確認が必要な点】 ① キッチンの交換時期(売主さんのお話だけで、年が未確認です) ② スーパーまでの距離(未確認のため、紹介文には入れていません) ③ 前の道の交通量(平日の夕方に見た様子だけのため、紹介文には入れていません)

  3. 人が見て直すところ

    • 面積・徒歩分数・築年月を、物件概要書と1つずつ見比べる(掲載前の確認表で)
    • キッチンの交換時期を売主さんに確かめ、年が分かれば書き足す。裏づけがとれなければ「交換済み」の書き方を見直す
    • メモの「眺め最高」はAIが外した。ほかに言いすぎがないかを、宅建士が使わない言葉の一覧と照らして確かめる
    • 掲載する写真がこの物件のものか、紹介文の部屋の説明と合っているかを確かめる

自分で試してみる

ChatGPT・Claude・Gemini などに、下の指示文と例をそのまま貼りつけてください。無料版でも試せます。お客さまの名前や住所など、本物の情報は入れずに、この例のまま試してください。

AIへの頼み方(指示文)を見る
あなたは不動産会社の広告担当のアシスタントです。
次の「物件概要」と「現地メモ」から、ポータルサイトに載せる物件紹介文の下書きを作ってください。

条件:
・150字前後の文章にする
・書いてよいのは、物件概要と現地メモにあることだけ。書かれていない設備・距離・周りの施設は足さない。面積・徒歩分数・築年月などの数字は物件概要のとおりに写し、計算や言い換えはしない
・不動産の表示に関する公正競争規約に注意し、「最高」「格安」「抜群」「完全」「超」のように、ほかより優れていることや欠けるところがないことを強く言う言葉は使わない
・「日当たり良好」「静か」など、物件概要と現地メモから確かめられないことは言い切らない
・この下書きは、宅建士が物件資料と照らして確認してから載せる。文のあとに、掲載前に確認が必要な点を3つまで挙げる

――――― ここから例 ―――――
中古戸建て/〇〇市△△町/売買
【物件概要(抜粋)】
価格 1,980万円/土地 165.20㎡/建物 98.54㎡(木造2階建て)/4LDK
築年月 2004年3月/駐車場 2台(並列)/取引態様 媒介
〇〇小学校 徒歩6分(道路距離450m)/JR〇〇駅 徒歩18分(道路距離1,420m)
【現地メモ】
・リビングは南向き、掃き出し窓が大きい
・キッチンは数年前に交換済み(売主さんの話。年は未確認)
・2階の洋室の窓から山が見える。眺め最高
・前の道は車が少なめ(平日の夕方に見た)
・スーパーは車ですぐらしい(距離は未確認)

ここから先を、仕組みにする

試して手ごたえがあったら、毎日の仕事で回る形にします。ここが伴走でお手伝いする部分です。

  • 会社の過去の紹介文を見本にして、いつもの書きぶりで下書きが出るようにする
  • 会社で決めた「使わない言葉の一覧」と掲載前の確認表を、指示文と確認の手順に組み込む
  • 1つの下書きから、ポータル用・ホームページ用・チラシ用の長さ違いを一度に出す
  • 徒歩分数を計算するスプレッドシートと、成約したら掲載を止める物件台帳を整える
この仕組みづくりを相談する →

仕組みを噛み砕くと

イメージとしては、会社の過去の紹介文を読み込んだ新人さんが、下書きまで作ってくれるようなものです。文章を書くのは早いけれど、広告の決まりにはまだ詳しくない。だから、先輩の宅建士が必ず目を通す、という前提で使います。

仕組みは4つの部品でできています。

部品 中身 誰が作る・使う
紹介文の見本集 会社で「よく書けた」と思う過去の紹介文を10〜20件 最初に社長が選び、伴走者が整理する
使わない言葉の一覧 根拠がなければ使えない言葉や、会社として避ける言い回し 伴走者が規約をもとに案を作り、社長が決める
掲載前の確認表 人が見る項目(面積・間取り・徒歩分数・写真・取引態様など) 宅建士が掲載のたびに使う
物件台帳 物件ごとの掲載先と、申込・成約の状況 事務担当が更新し、成約したら掲載を止める

使うときの流れは次のとおりです。

  1. 入力:物件概要書・図面、現地の音声メモ、写真の説明
  2. AIがやること:見本集の書きぶりに合わせて、媒体ごとの紹介文の下書きを作る。一覧にある言葉を使っていないか、自分でも印をつける
  3. 計算:最寄り駅やスーパーまでの徒歩分数は、道路距離をもとにスプレッドシートの計算式で出す(AIに計算させないのがポイントです)
  4. 人が確認すること:資料と事実が合っているか、言いすぎていないか、写真が取引する物件のものか
  5. 出てくるもの:各媒体の入力画面にそのまま貼れる紹介文

徒歩の分数には決まった計算方法があります。表示規約の施行規則では、道路距離80メートルにつき1分として算出し、1分未満の端数は1分として数えるとされています2。こうした決まった計算は、AIではなく計算式に任せます。

ポータルサイトの側でも、紹介文をAIで作る機能が出てきています。たとえば不動産投資サイトの楽待は、入力済みの物件情報や、不動産会社・担当者の情報をもとに、PR文を短時間で自動生成する機能を発表しています3。どの道具を使う場合でも、掲載前に人が確かめる工程は同じです。

進め方の例(小さく始める)

ステップ1 見本と決まりをそろえる(1〜2週目)

会社にお願いするのは、過去の紹介文の中から「よく書けた」と思うものを選んでいただくことと、1時間ほどの聞き取りです。伴走者は、規約をもとに「使わない言葉の一覧」と「掲載前の確認表」の案を作り、社長と一緒に会社の決まりとして仕上げます。

ステップ2 賃貸の空室で試す(3〜4週目)

件数が多く、文章が短くてすむ賃貸の空室から始めます。社長がいつもどおり書いた文と、AIの下書きを並べて比べ、言いすぎや書き漏れを直していきます。AIへの指示文も、ここで会社の言い方に合わせて整えます。

ステップ3 売買の物件にも広げる(2ヶ月目)

売買の物件は、周りの環境や設備の説明が長くなり、確かめる項目も増えます。確認表を使いながら、媒体ごとの長さ違いを一度に出す使い方に慣れていきます。物件台帳で、成約したら掲載を止める手順もここで決めます。

ステップ4 若手が下書き、宅建士が確認(3ヶ月目以降)

若手の営業が現地メモから下書きを作り、宅建士が確認表で確かめて掲載する形に移ります。確認表と言葉の一覧は、広告の決まりを若手に教える教材にもなります。

ここまでを、数百万円の物件管理システムに入れ替えるのではなく、今のポータルサイトと物件資料の形を活かして作ります。チラシやホームページでの発信の工夫は、集客・情報発信の悩みのページもご覧ください。

気をつけたいこと・AIに任せないこと

AIの文章は、もっともらしい強い言葉を選びがちです。不動産の広告では、そうした言葉や表示に決まりがあります。

  • 誇大な表示をしない。 宅地建物取引業法は、物件の所在や規模、環境や交通の利便、代金などについて、著しく事実に相違する表示や、実際より著しく優良・有利と人を誤認させる表示を禁じています4。
  • 根拠のない言葉を使わない。 規約では、「完全」「絶対」のような欠けるところがないことを意味する言葉や、「日本一」「超」「当社だけ」「抜群」のようなほかの会社より優位に立つことを意味する言葉は、表示の内容を裏付ける合理的な根拠を示す資料を現に持っている場合を除き使えないとされています2。
  • 成約済みの物件を載せ続けない。 国土交通省は、成約済みの物件を速やかに広告から削除せずに掲載することは「おとり広告」に、他の物件情報をもとに賃料や面積、間取りを改ざんすることは「虚偽広告」に当たると示しています4。AIは物件の今の状況を知らないので、物件台帳で人が管理します。
  • 写真と図は取引する物件のものを。 規約の施行規則には、写真や動画は取引するものを表示すること(建築工事の完了前などの例外には条件があります)、コンピュータグラフィックスや完成予想図はその旨を明示して使うことが定められています2。面積を実際より広く、間取りを実際より優良と誤認されるおそれのある表示も禁じられています2。AIで加工した写真の扱いを直接示した国の指針は、今回調べた範囲では見つかっていません。
  • 重要事項の説明や契約の判断は、宅建士が担います。 宅地建物取引業法は、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士に、重要事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならないと定めています5。AIに任せるのは、広告の下書きまでです。

具体的な対応は、所属の団体や各地区の不動産公正取引協議会など、所管の窓口や専門家にご確認ください。

伴走者がお手伝いすること

  • 過去の紹介文の整理と、会社の書きぶりに合わせたAIへの指示文づくり
  • 規約をもとにした「使わない言葉の一覧」と、掲載前の確認表の案づくり
  • 徒歩分数を計算するスプレッドシートと、成約の状況を管理する物件台帳の整備
  • 物件資料から個人の情報を外す手順など、AIに入れてよい情報の社内ルールづくり
  • 若手への使い方の説明と、使い始めてからの調整

不動産会社での使い方は業種ページにまとめています。AIを使うときの全体の注意点は、AIを使うときの注意点のガイドもご覧ください。

参考にした資料

  1. 国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課「不動産分野におけるDXの推進について(資料2)」(2023年12月) https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001710694.pdf ↩

  2. 不動産公正取引協議会連合会「不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則」(令和6年10月1日施行の変更を含む。特定用語は規約第18条第2項、面積・間取りの表示は第23条、徒歩分数・写真・CGは施行規則第9条) https://www.rftc.jp/webkanri/kanri/wp-content/uploads/2019/02/h_kiyaku.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  3. 楽待株式会社「「不動産投資の楽待」にChatGPT搭載 物件紹介文の自動生成機能などを6月リリース」(PR TIMES、2023年5月31日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000429.000001240.html ↩

  4. 国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課「いわゆる「おとり広告」等の禁止の徹底について(国不動指第80号)」(2023年1月12日。宅地建物取引業法第32条〔誇大広告等の禁止〕の条文と「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」を収録) https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001738457.pdf ↩ ↩2

  5. e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(昭和二十七年法律第百七十六号)第35条第1項(重要事項の説明等) https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176 ↩